ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

-ウェー

2つ前の記事の「ドライブウェー」を詳しく見てみるきっかけとなった項目です。三省堂国語辞典から。

 

  -ウェー (造語) ①道。「ドライブー」②…とおり(の使い道)。「スリー-スピーカー・ツー-コート」▽ウェイ。ウエー。

 

①の「道」の用例として「ドライブウェー」があります。これが英語か和製語かという話を前に書きました。
②の用例として「スリー-スピーカー・ツー-コート」があげられていますが、使用者はこれらの例の意味がわかるのでしょうか。
「ウェー」は「道」だと思っていたら、「…とおり(の使い道)」という用法もあるんだ、と知るような使用者は、これらの例はわからないでしょう。

 

さて、「スリーウェースピーカー」とは? 三国にこの項目はありません。「スリーウェー」という項目もありませんが、「ツーウェー」はあります。

 

     ツーウェー ①二とおりに使えること。「-タイプのバッグ」②二方向。(三国)

 

これから考えると、「スリーウェー」というのは、「三とおりに使えること」あるいは「三方向」でしょうか。そういうスピーカー?

でも、「スピーカー」とはそもそも何のことでしょうか。「スピーカー」にはいくつかの用法があります。そのどれでしょうか。

 

  スピーカー〔speaker〕①拡声器。ラウドスピーカー。②ステレオやテレビの、音を出す部分。③話し手。講師。発表者。「シンポジウムの-」④〔俗〕うわさ話を広めるのが好きな人。 (三国)

 

さて、どの意味でしょうか。「三とおりに使える」というと①の拡声器あたりがよさそうですが。

答え:大辞林を見ると「スリーウェースピーカー」という項目があり、②の「スピーカー」でした。

 

  大辞林 高音域用・中音域用・低音域用の三個のスピーカーを一台に組み込んだスピーカー。

 

これは、上の「ウェー」の使い方で説明できるでしょうか。「三通りに使える」ではありませんね。「三方向」?

 

次は、「ツーウェーコート」です。上にあげた「ツーウェー」の「-タイプのバッグ」というのも、どういう「バッグ」なのか、私にはわかりません。「二とおりに使えるバッグ」? どのように?

 

大辞泉に関連する項目があり、そこにコートのことも書いてありました。
   
  ツーウエーファッション【two-way fashion】 二通りに、あるいはいくつかの条件に合わせて服を変化させることができるもの。裏地を取り外せるコート、晴雨兼用のオールウエザーコートなど。  (デジタル大辞泉

 

なるほど。これはよくわかります。
百科事典には「-コート」の項目がありました。 

 

    ブリタニカ国際大百科事典小項目事典の解説
  ツーウエー・コート two-way coat    2通りの用途に着られるコート。防水加工を施したオールウェザー・コート,裏地が取り外せるライニング・コート,裏返して着られるリバーシブル・コートがある。

 

なるほどなるほど、です。

三国の編集者は、使用者はこれらの用例の意味が当然わかると考えているのでしょうか。あるいは、用例の意味はわからなくてもいいということでしょうか。それなら、用例の価値とは何でしょうか。もう少しわかりやすい例にするか、その用例の意味を説明するか、何か工夫が必要でしょう。

 

ウイニング-

外来語シリーズです。英語か和製語かという問題。

三省堂国語辞典から。

 

  ウイニング-(造語)〔winning〕勝利を得る。
   ・-ショット〔winning shot〕〔球技で〕勝利を決定づける一打。きめだま。

 

「ウイニング」は「造語成分」で、他の語と共に使われるものです。
「ウイニングショット」を、三国は英語としていますが、新明解・明鏡その他は和製英語とします。大辞林大辞泉も。

 

  新明解 〔和製英語 ←winning+shot〕〔テニスで〕それによって必ず勝つという、得意の打ち方。決め球。〔野球で〕その投手が打者を打ち取るのに最も得意とするたま。決め球。

 

旺文社は用法によって違うと言います。


  旺文社〔winning shot〕①テニスやゴルフなどで、勝負を決める得意の打ち方。②<和製英語>野球で、その投手が打者を打ち取るときの得意な球。決め球。

 

テニス・ゴルフなどと野球で分け、後者は和製とします。野球は「打つ(shot)」わけではありませんから、これが正解のように思えますが、どうでしょうか? (ただし、ゴルフの場合は「得意の打ち方」でしょうか。ふつうの打ち方をして、それが入った場合に「ウイニングショット」というのではないでしょうか。)

 

 「ウイニングボール」というものもあります。

 

  ・-ボール〔和製winning ball〕〔野球で〕守るチームの勝ちが決まったとき、最後にアウトにした、その時のボール。 (三国)

 

三国も、他の辞書も、これは和製としています。集英社はゴルフでの用法をあげています。

 

  集英社 ②(ゴルフで)優勝者が最終ホールでカップに入れたボール。

 

最後に、「ウイニングラン」。

 

  ・-ラン〔winning run〕①〔野球などで〕決勝点。②〔陸上競技などで〕勝者が、観客の称賛にこたえるため、競技場を一周すること。 (三国)


 新明解は、②は「日本語用法。英語ではvictory lapという」と書いています。大辞林も②は「日本での用法」。
大辞泉は三国と同じで、英語をつけ、注釈なし。つまりどちらも英語の用法だとします。
現代例解は、どちらも「洋語」つまり和製とします。(「洋語」というのは次の②の最後の「日本で作った」ものです。)


   洋語 ①西洋の言語。(⇔和語・漢語) ②外来語のうち、西洋からはいってきたことば。外来語の大部分はこれ。外来語を組み合わせて日本で作った単語もふくむ。 (三国)


けっこう辞書によって判断が違うものです。このようなことは、それぞれの専門家に聞けばどちらかに決まるはずのものではないでしょうか。

 

ドライブウェー

また三省堂国語辞典の外来語特集です。

 

  ドライブウェー〔和製driveway〕ドライブ専用の舗装道路。(三国)

 

「driveway」は「和製」だそうです。正しい英語ではない、と。

新明解も同じ考えです。英語での意味も書いてあります。

 

      新明解 〔和製英語 ←driveway〕自動車でドライブするための道路。〔英語の driveway は門から車庫に通じる私道などの意〕

 

これで話が終われば、それでいいのですが、他の辞書で違うことを言っている辞書があります。

 

      明鏡 [driveway]自動車道路。特に、ドライブを楽しむのに適した観光道路。
      岩波 (ドライブに適した)自動車道路。▽driveway

 

この2冊は、何の注記もなく、つまりは英語だとしています。

三国・新明解と明鏡・岩波で違います。和製語か元々英語なのか。(それにしても、三国の「舗装道路」は面白いですね。)

記述がちょっと不明瞭、あるいは矛盾した辞書もあります。

 

  旺文社 ドライブウエー<米 driveway> 自動車道路。特に、観光・ドライブに適した道路。[参考]英語の driveway は、公道から玄関・車庫までの私道をいう。


 初めに<米>とあるので、イギリス英語では違う、ということだろうと思うのですが、[参考]で単に「英語」と言ってしまっては、そこがはっきりしないでしょう。旺文社が「英語」をイギリス英語の意味で限定して使っているとは思えません。(と言うより、後で見る英和辞典によれば、イギリス英語では drive のはずです。)

 

    例解新 自動車でドライブができるようにつくった道路。◇driveway  [参考]英語では、「道路から家や車庫などに通じる私設の車道」という意味。


 「もとになった外国語」として英語の綴りをあげながら、「英語では~」とするのは矛盾していると思うのですが。

その他の辞書では、学研と集英社は英語扱い、現代例解は「アメリカ」、三省堂現代は三国・新明解と同じく「和製英語」です。同じ出版社ですし。

しかし、同じ三省堂大辞林は、

 

  大辞林 ①自動車道路。特に、観光その他の自動車走行を楽しむのに適した道路。
      ②邸宅の門から車寄せ・車庫までの車道。

 

として、英語と認めているようです。(大辞林の②は、日本語で言うかどうかちょっと疑問ですが。)

大辞泉も、英語としています。

 

    大辞泉 (driveway)自動車道路。特に観光などのドライブに適した道路。

  

driveway を英和辞典で引いてみると、

   

  プログレッシブ英和中辞典(第4版) [名]1 (米)(通りから建物・車庫への)私道(英drive).2 (カナダ)自動車道路. 3 家畜を追う道.  

 

おやおや、カナダ英語も出てきました。もっと大きな英和辞典では、

 

  ランダムハウス英和大辞典 1(主に米) (街路から建物・家屋・車庫などへ通じる)私道,車道,車回し(主に英 drive).  2 (主に米) 自動車道路,ドライブウエー.  3 (主に米) 家畜を追う道;干し草や穀物などを納屋に運ぶ道.  4 (カナダ) (ドライブに適した)景色のよい主要道路.

 

いろいろ細かい違いはあるようですが、結局、「英語」として「(ドライブに適した)自動車道路」の意味はあるようです。

結論として、三国・新明解・三省堂現代の「和製」という記述は誤りということでいいでしょうか。

 

浮かされる

三省堂国語辞典から。

 

  浮かされる ①心がうき立つようにさせられる。むちゅうにさせられる。「熱に-」②頭がのぼせて、ぼんやりする。「酒に-」

 

「熱に夢中にさせられる」?

新明解から。

 

   1 何かに心を奪われて、落ち着かない状態になる。
   2 高熱などで意識が はっきりしなくなる。「熱に-」

 

明鏡から。

 

   1 高熱などで、意識が正常でなくなる。「熱に━」
   2 夢中になって、心がうわついたようになる。「投資ブームに━」

 

ふーむ。三国はどうしたのか。

 

受け入れ

おや、と思うところを見つけたのでその報告を。

まずは現代国語例解辞典から。「受け入れ」という語の、ふつうの意味での使い方はいいとして、ちょっと特殊な用法についての記述の問題です。

 

  受け入れ [2] 会計帳簿上の収入。または貸方。

 

ここの「貸方」の意味はわかりませんが、それは気にしないことにして、集英社国語辞典で同じ項目を見ると、

 

  受け入れ ② 会計帳簿上の収入。または借り方。⇔払い出し

 

となっています。

「貸方」「借り方」というのは、その分野の用語で、特別な意味を持つのでしょうが、素人考えでもこの2語が同じことを指すとは思えません。

 

   貸し方  複式簿記の帳簿で、右側の記入欄。負債・資本の増加、資産の減少、利益の発生を記入する。貸し。    現代国語例解辞典

   借(り)方 (複式簿記で)帳簿の左側の記入欄。資産の増加、負債の減少、費用の発生などを記入する。借り。    集英社国語辞典

 

複式帳簿のことはまったくわかりませんが、やはり「貸し」と「借り」は反対のことを表すのでしょう。

 

現代国語例解と同じ出版社(小学館)の日本国語大辞典も「貸方」です。

大辞林大辞泉の「受け入れ」には「貸(し)方/借(り)方」という記述はありません。

さて、どういうことなのでしょうか。 ふつうに考えればどちらかが間違っている(おそらくは集英社?)のでしょうが、誰か専門家に聞いてみないとわかりません。

 

ウインター

だんだん三省堂国語辞典の外来語特集になってきました。今回は「ウインター」です。

 

  ウインター(名) 冬。「-スポーツ」

 

「ウインター」は確かに「冬」で、それ以外のものではありません。前回の「ウイッグ」を「かつら」とした時のような、意味の広がりの違いということもなさそうです。しかし、やはり問題があります。

それは、(名)という品詞の指定のところです。

名詞である、ということは、

  ウインターは/が ~

とか、

  ウインターを/に/の ~

あるいは、

  ~のウインター

などの使い方がある、ということです。

例えば、「ウインターがやってきた」とか、「今年のウインターはどこへ行こうか」とか、「寒いウインターをどう過ごすか」などの言い方をふつうはしないとするなら、「ウインター」は確かに「冬」を意味するけれど、日本語の中でふつうに名詞としては使われない、ということです。

では、どう使われるのか。他の多くの辞書は、「ウインター」を項目として立てていません。立てるべき項目として気付いていないのではないでしょう。逆に「ウインタースポーツ」を項目とする辞書があります。三国は、「ウインター」の用例としてあげているだけですが、他の辞書の編者は、説明が必要な語だと考えているのでしょう。

 

  新明解

   ウインタースポーツ 冬季に行われるスポーツ。スキー・スケートなど。

  明鏡

   ウインター-スポーツ 冬季に行われる運動競技。スキー・スケート・アイスホッケー・そり競技・カーリングなど。

 

「ウインター」が、他の語と結びついて使われるのが基本的用法なら、それは「造語成分」で、(造語)とすべきものです。もし、名詞として使われるというなら、「ウインタースポーツ」のような例ではなく、助詞を付けた例をあげるべきでしょう。

なお、次の三省堂現代の項目の立て方・用例は、どうも間が抜けている、と言っては失礼でしょうか。

 

  三省堂現代

   ウインター 冬。「-スポーツ」

   ウインタースポーツ 冬のスポーツ。スキー・スケートなど。

 

せめて前者の用例を複数にするか、他のものにしたほうがいいのではないでしょうか。

 

ウイッグ

また三省堂国語辞典です。どうも「う」の初めあたりの項目はうまく書けていません。

 

  ウイッグ かつら(鬘)。ウィッグ。

 

説明はこれだけです。「ウィッグ」は別の表記、あるいは発音の問題ですから、意味の説明は「かつら」だけです。

しかし、誰でもすぐ気付くように(ですよね?)、「ウイッグ」は「かつら」と同じではありません。

 

  かつら  ①かみの毛などで美しく作り、外出するときなど頭にかぶるもの。②〔芝居などで〕頭にかぶって扮装するもの。▽かずら。

 

①のほうは、(「ウイッグ」の説明として)いくつかの点で足りないところがあるのはともかくとして、まあ一応の説明になっているとは思うのですが、「かつら」には②の意味もあります。それを「ウイッグ」とは言わないでしょう。

ですから、少なくとも「かつら①」とすべきです。(演劇関係者は「ウイッグ」というのでしょうか? 時代劇の場合も?)

他の辞書で「ウイッグ」を見てみると、

 

  新明解 洋髪のかつらや付け毛。

    つけげ 美しく見せるために、頭髪に付け加える別の毛(を付けること)。

 

まず、「洋髪」であること。「つけげ」もウイッグですね。

 

  集英社 かつら。特に、女性用の洋髪のかつら。

 

特に女性用であること。男性用は「ウイッグ」と言うかどうか。おしゃれな人なら言う? 

 

  新選 女性がファッションとしてつける洋装用のかつら。
       かつら ①少ない頭髪をおぎなうためにかぶるもの。②頭の形の地に、毛髪を植え、いろいろな髪形につくったかぶりもの。演劇用、女性のおしゃれ用など。

 

新選は「女性がファッションとして」と書いています。私は、この新選の説明がいいと思うのですが、新明解の「付け毛」も言うということを加えたほうがいいと思います。ウイッグは「かぶる」ばかりではないので。それにしても、「かつら」の①の言い方は、(正しいのだけれど)なかなかきびしいですね。