ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

お父さん

前に「お母さん」「ママ」という記事を書いたことがありますが、「お父さん」「パパ」を書いていませんでした。各辞書とも、「お母さん」と同じような書き方をしていて、その短所・長所も同じようなものになります。 まずは、いろいろと足りない明鏡から。(…

親類・親戚

久しぶりに。 「親類」と「親戚」は、その指すもの、つまり意味は同じだと言っていいと思いますが、文体的にどう違うのか。国語辞典によって意見が分かれます。 [1]意味は同じだと言う辞典。 親類 1親戚しんせき。 2よく似たもの。同類のもの。「カレイ…

梅雨・夏・初夏

暖かくなってきました。春です。岩波国語辞典で「春」を見ると、 春 冬の次の季節。立春から立夏の前日まで。日本では普通三・四・五の三か月。 (以下略) 岩波 春は「日本では普通三・四・五の三か月」ということになっていて、その後の夏が「六・七・八」…

日曜・週

軽い話です。 「日曜」について、他の辞書と違うことを書いている辞書があります。まず一般的なほうから。明鏡国語辞典。 日曜 週の第一日。土曜の次の日。日曜日。官公庁・一般企業・学校などでは 休日とする。 明鏡 そういうことだよね、と思います。 日曜…

「午後1時」:時刻の言い方

誰でも知っているような表現をどうきちんと説明するか。 時刻の言い方というものを考えてみます。 三省堂国語辞典から。 じ(時) 一昼夜の二十四分の一を単位としてしめす、時刻のしめし方。「午後一-」 三国 何も品詞の指示がないということは、名詞だとい…

夕方・夕暮れ・日暮れ

「夕方・夕暮れ・日暮れ」の三語はどう違うのか。ほぼ同じと言っていいか。国語辞典を見てみます。 新明解国語辞典から。 夕方 日が西に傾いてから、あたりが暗くなるまでの間。夕刻。 新明解 「日が西に傾いてから」です。「暗くなる」というのは、どの程度…

今や

三省堂国語辞典の「今や」の項は、どうも説明が足りません。 今や(副)1今(にも)。2今では。「あの男が-一流の学者だ」 三国 この1の「語釈」(?)は何だかわかりません。「今や」は「今」または「今にも」と同じだというのでしょうか。もちろん、そう…

たった今

三省堂国語辞典と明鏡国語辞典から。 たった今 いましがた。ただいま。「-帰りました」 三国 たった今 ほんの少し前。いましがた。「━到着したばかりだ」 ▽「ただいま」の転。 明鏡 三国。「たった今」の「語釈」として「いましがた」を最初にあげるのはど…

とても・大変・非常に

「とても・大変・非常に」という語が国語辞典でどう説明されているかを見ます。 どれも程度を強調する副詞で、よく使われるものですが、さて、どういう違いがあるのか。それとも、違いはないと言ってしまってもいいのか。 とても面白い 大変面白い 非常に面…

形成-する

「形成」という語の語釈の細かい問題について。 形成 〘名・ス他〙整ったものに形づくること。「―外科」 岩波 〔名・他サ変〕整った形に作りあげること。形づくること。「人格を━する」 明鏡 〔名・他サ〕1形を作ること。まとまったものを作ること。「深い…

マザー・ファーザー

短い話を二つ。 まず、前回は英語から来た「ママ」をとりあげたので、ついでに「マザー」も見てみましょう。 マザー〔mother〕1母親。(⇔ファーザー)2〔宗〕女子修道院の、院長。 三国 マザー ①母。母親。「シングル―」(死別・離婚・未婚などにより一人…

ママ

前回の「おかあさん」に続いて「ママ」を。「おかあさん」と何が違うのか、どう使い分けるのかが国語辞典に書いてあるかどうか。 ママ[ma(m)ma]1[幼児語] おかあさん。「教育-」[自分の妻をさして言うことも ある] [対]パパ 2バーなどの女主人(を呼ぶこ…

おかあさん

基本的なことばの基本的な用法が国語辞典にきちんと記述されているかどうかを見ていきます。 おかあさん 子どもが、自分の母親を親しんで、また、うやまって呼ぶことば。 〔夫が妻を呼ぶときなどにも使う〕[類]かあさん・(お)かあさま・(お)かあ ちゃん・お…

広辞苑と形容動詞:再び・第一版の「国文法概要」

以前、「2022-08-29 広辞苑と形容動詞(1)」という記事を書いた時に、第五版の「日本文法概説」を紹介し、(第六版もほとんど同じ。もっと前の版も見てみたいのですが、それはまたいつか。)と書きました。 先日、大学の図書館へ行って『広辞苑 第一版』(1955…

「痛める」:再び

このブログを始めたころ、「痛める」という動詞について書いたことがあります。「痛める」というのはどういう意味かはっきりしない、という話でした。(2013-03-14「痛める」/2013-03-24 「痛める」続き) 例えば、ナイフで手を切って「手を痛めた」と言う…

びっくり

これも広辞苑の副詞を調べていた時に、辞書によって品詞が違うことに気付いた語です。 まず、広辞苑から。(語釈などを省略します。) びっくり(名)「地震に-する」「-するほど広い」 広辞苑 名詞と言いながら、用例は「~する」をつけた動詞の形だけで…

「大きな・小さな」「おかしな」

前回の「めった(な)」に関連した話です。 「めったな」という形はいかにも形容動詞風ですが、「×めっただ」という形(終止形)がないことを考えると、形容動詞とは言い難いものです。そこで、「連体詞」とする考え方があるということを前回書きました。 同…

めった・めったな・めったに

広辞苑の副詞を検討したときに出てきた語です。 辞書によって扱いが大きく違うので、いろいろ見てみます。 まず、広辞苑から。(例文の一部を省略します) めった 1分別のないさま。むやみやたらなさま。「-な口はきけない」 2(下に打消の語を伴って)容…

勝つ・負ける:もう一つの用法

「勝つ・負ける」については、前に「2020-12-08 勝つ・負ける」という記事を書きました。新明解の語釈が偏っていること、明鏡・岩波の語釈は循環していること、三国があっさりまとめていていいけれども、それ以外の場合もあることなどを書きました。 このと…

「勝ち越す・負け越す」:広辞苑など

広辞苑のはっきりしたミスを見つけました。大したことではありませんが。「勝ち越す・勝ち越し」「負け越す・負け越し」の項目を。 勝ち越す(自五)負けた数より勝った数が多くなる。相手より多く勝つ。「一点 -・す」 勝ち越し 勝ち越すこと。「横綱の-が…

広辞苑と「自動詞・他動詞」(4)

前回の記事の続きです。広辞苑の動詞の自他判定を、他の十種の辞書と比較しながら検討していきます。 前の記事でとりあげた順に見ていきます。かっこ付き数字はその記事の番号です。(「2021-12-19 国語辞典の「自動詞・他動詞」(15)」~) 発話行動に関する…

広辞苑と「自動詞・他動詞」(3)

前回の記事の続きです。広辞苑の動詞の自他判定を、他の十種の辞書と比較しながら検討していきます。 前の記事でとりあげた順に見ていきます。かっこ付き数字はその記事の番号です。(「2021-12-11 国語辞典の「自動詞・他動詞」(7)」~) (7)(8) 割る 割り…

広辞苑と「自動詞・他動詞」(2)

前回の記事の続きです。 少し前に十種の国語辞典で調べた動詞を広辞苑がどう判定しているかを見ていきます。前の記事でとりあげた順に見ていきます。かっこ付き数字はその記事の番号です。(「2021-12-05 国語辞典の「自動詞・他動詞」(1)」~) (1)(2)(3)(4…

広辞苑と「自動詞・他動詞」

前に、「国語辞典の「自動詞・他動詞」」という題の記事を長く書きました。(「2021-12-05 国語辞典の「自動詞・他動詞」(1)」~「2022-01-29 国語辞典の「自動詞・他動詞」(33):いろいろな意見」) 多くの動詞について、十種の国語辞典が自動詞とするか他…

広辞苑の副詞(3)

「練習問題」の「解答編」の続きです。 広辞苑の「副詞」というものがわからない、という話です。 次の語が広辞苑でどういう品詞を与えられているか、それはなぜかを考えます。 15さっぱり 16しっかり 17しっくり 18じっくり 19しばしば 20すっかり 21すっき…

広辞苑の副詞(2)

前回の続きです。 前回の最後に「練習問題」(?)として、広辞苑が副詞と認めるのはどれか、などという変なクイズを出しました。今回はその「解答編」です。 まずは、広辞苑の副詞と名詞に関する「文法概説」を。しつこく繰り返し引用します。第五版(第六版も…

広辞苑の副詞

前回は「擬声語・擬態語は名詞の一類とするべきである」という広辞苑の「日本文法概説」の説明がまるでわからないという話を書きました。(引用したのは第五版の「文法概説」ですが、その方針は第七版でも変わっていません。) では、広辞苑の副詞とはどうい…

広辞苑の名詞:擬声語・擬態語

前回は、「外来語はすべて名詞扱い」という広辞苑の考え方について書きました。 今回は、名詞の中に多くの副詞が押し込められているのではないかという話です。その中心は擬態語の類です。(一般には「擬音語・擬態語」と言うことが多いのですが、広辞苑第五…

広辞苑の名詞:外来語

:前回までは広辞苑の「形容動詞」の扱いを見てきました。広辞苑はいわゆる「形容動詞」を認めず、それらを名詞とします。「形容性の名詞」です。 では、それ以外にはどんな名詞があるのか。広辞苑の「名詞」は、他の一般の国語辞典に比べて、範囲が広いよう…

広辞苑と形容動詞(3)

前回の続きです。 広辞苑の「日本文法概説」は、第六版ではp.194-205だったのが、第七版ではp.196-215となり、大幅に増補されました。特に動詞・助動詞あたりが詳しくなったようです。 形容動詞の解説も大きく書き換えられました。 「形容動詞否定論」という…