ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

広辞苑と形容動詞(2)

前回の続きです。 前回は、広辞苑(第五版)の「文法概説」が形容動詞について説明している部分を紹介しましたが、どうも不明瞭な説明でした。 ここでいちばん問題なことは、「文法概説」の「形容動詞を認める立場」の紹介が、形容動詞と名詞の違いについて…

広辞苑と形容動詞(1)

以前、国語辞典と形容動詞について何回か記事を書きました。(「2021-09-18 新明解の副詞:くたくた・ぐたぐた」(の一部)から6回分、「2021-11-07 明鏡国語辞典と「形容動詞」」から5回分) その時、広辞苑についても書きたいと思ったのですが、手元に新…

こびりつく

三省堂国語辞典の項目です。次の説明には問題が二つあると思います。 こびりつく〔俗〕ねばりけのあるものがかたくくっつく。「ごはんつぶが-」 三国 まず、文体の指示について。〔俗〕というのは、「俗語」というその語の文体を示す記号です。「俗語」とは…

手がはやい

短い話。 明鏡と新明解のそれぞれ一つ前の版から。 手が早い 1物事をするのが早い。2すぐに暴力をふるう。「口より━」3異性と すぐに関係をもつ。「━男」[注意]「はやい」を「速い」と書くのは誤り。 [明鏡 第二版] 手が速い 1 処理の手順に むだが無く…

小指

まったくどうでもいいような話なんですが…。 小指 手足の指のうち、一番外側にある最も小さい指。 明鏡 手足にある、一番外側の、一番小さい指。▽手の小指で妻・妾(めかけ)・ 情婦などを表すことがある。 岩波第七版 親指からかぞえて五番目の、一番小さな…

前回の続きのような話。前回の記事で、「煮る」の説明にあった言葉です。 食物などを水や汁と共に加熱して 岩波 食材を水や汁の中に入れて火にかけ 明鏡 この「水や汁」という言い方がどうもしっくり来ませんでした。 私にとって、「汁」とはそれ自体が料理…

煮る・ゆでる

新明解国語辞典の「煮る」の項から。 煮る (なにヲ-)液体の中へ入れ、熱を通して柔らかく(どろどろに)する。 〔狭義では、食品について言い、それに味をつけるまでをも指す〕 新明解 基本的にはこういうことなのでしょうが、何で用例が一つもないのでしょ…

とりおく・とりのける

「とりおく」ということばを岩波国語辞典で引いてみると、 とりおく 〘五他〙とりのけておく。 岩波 では、「とりのける」は。 とりのける 〘下一他〙物をとりのぞく。のぞきさる。 岩波 で、「とりのぞく」を見ると、 とりのぞく 〘五他〙①じゃま物、不用の…

病気・病院

大したことではないのですが…。国語辞典の「病気」と「病院」の説明について。 病気 身体の生理的機能や精神の働きに障害が生じ、苦痛・不快感などによって 通常の生活が営みにくくなる状態。やまい。疾病。「━になる」 明鏡 -する (自サ)生理(精神)状態に…

二つの(書きことば)コーパス

前回の記事で、書きことばコーパスで「乳房を+動詞」のコロケーションを見てみたら、という話を書きました。 (乳房を)切除する 挟む 圧迫する (いる) 残す 再建する 作る という動詞が並んでいて、ちょっとびっくりした、と書きました。 このとき参考に…

胸・乳房

新明解国語辞典の「胸」の項目を。 胸 1人間などのからだの前面で、首と腹の間の部分。また、その中にある肺臓・ 心臓・胃など。「-〔=肺〕を病む/-〔=心臓〕が騒ぐ/-〔=胃〕が焼ける/ -をかきむしる(なでおろす)/-に手を当てる/-のすくような〔=…

人体・肉体

新明解の「人体」はちょっと問題があります。 人体 人間のからだ。「喫煙が━に及ぼす影響」 明鏡 生きている人のからだ。「-実験」 新明解 「人体」は「生きている人のからだ」ですか?「人体実験」はそうかもしれないけれど、では、「人体解剖」は? 解剖 …

本・書物など

まず明鏡国語辞典の「書物」などの説明のしかたを見てください。 書物 本。書籍。「-を読む」 書籍 書物。本。図書。 図書 書物。本。「参考-」「-整理」 明鏡 ふーむ。これらがどう違うのか、一般にどう使い分けられているかという問題には、まったく関…

生物

「生物」の国語辞典の説明が不正確です。 生物 命を持ち、生長し、繁殖するもの。動物・植物の総称。 三国 生きて活動する物。いきもの。〔動物・植物の総称〕 新明解第七版 生きて活動し繁殖するもの。動物・植物の総称。無生物。 ▽「なまもの」と読めば別の…

鉛分・塩分・鉄分

7年前に「鉛分」という記事を書きました。 niwasaburoo.hatenablog.com 元の記事は新明解の第七版についてのもので、2020年に第八版についてまた書きました。何も「改訂」はされていなかったので、同じ話になってしまいましたが、少し議論を書き足しました…

持ち上がる

三省堂国語辞典の記述から。 もちあがる 1持ち上げた状態になる。「土が-」2〔さわぎ・ごたごたなど、 よくないできごとが〕起こる。(以下略) 三国 「土が(持ち上げた状態になる)」とはどういうことでしょうか。「もちあげる」を見ます。 もちあげる …

簡単

「かんたん」という語は、なかなか簡単ではありません。 岩波国語辞典の記述から。 簡単 〘名・ダナ〙こみいっていないこと。取扱いがたやすく、手数がかから ないこと。⇔複雑。「―な試験」「―明瞭」 岩波 これだけ見ると、これでいいようにも思えますが、他…

ともすれば・ともすると

新明解がよいと思われる項目を。 ともすれば 副 ともすると。 明鏡 〘連語〙→ともすると 岩波 (副)適切な対処(注意)を怠ると、そうなる傾向が現われやすい様子。 ともすると。「-湿りがちな雰囲気を明るくする/-時代の風潮に 流されやすい」 新明解 三国 …

新明解の副詞:まさか

新明解国語辞典の語釈の問題点です。 まさか (副)〔「まさ」は、「まさしく・まさに」の語根と同義。「か」は接辞〕 あるはずがないと確信している事が、意外にも実現した場合を想定する (して信じられないことだと思う)様子。[表記]「真逆」と書くこともある。 [文…

熱い

短い話。新明解と岩波の「熱い」が不十分だという話です。関係する用法だけ引用します。 熱い 物が高い熱をもっていて、接触したり 近づいたり するとからだに強い 刺激を受ける(のが危険だと感じられる)状態だ。「-砂の上をはだしで 駆け回る/-食べ物や…

寒い・暑い・涼しい

新明解国語辞典の記述がどうも変です。 寒い ⇔暑い 気温が低くて、快適に過ごすことが出来ない状態だ。 〔赤道から遠く隔たった地帯やヒマラヤの高山などのように、年間を通じて 気温が低く寒く感じられる所を指すこともある〕「冬の-朝/背筋(セスジ) が寒…

冷たい

「冷たい」についての国語辞典の記述に疑問を感じました。 まず新明解の問題点から。 (形)⇔熱い 1雪や氷に触ったときのように、そのものに触れて、刺すような痛みが 感じられたり皮膚の感覚が失われるように感じられたり する様子だ。「-水/ 風が-/救助…

三国第八版:肌色

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 2年前に「はだいろ」について書きました。 niwasaburoo.hatenablog.com 三国第七版の記述。 1はだの色。2〔はだの色に似た〕黄色みがかった、…

三国第八版:筆記・書きつける

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 三国の「筆記・書きつける」について、短い記事を書いたことがあります。 niwasaburoo.hatenablog.com 第八版は第七版と同じ内容です。(表記につ…

三国第八版:なおかつ・なおさら・おいかける・おいうち

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 前回、用例が増えてよくなった例として「傾向」をとりあげました。 今回は、まず「なおかつ・なおさら」をとりあげます。 次の記事は、岩波の問題…

三国第八版:傾向

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 用例が増えてよくなった例を。 まず、「傾向」です。抽象的な語をどう的確に説明するか。 niwasaburoo.hatenablog.com 傾向 1ある方向へむかうよ…

三国第八版:-たち

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 niwasaburoo.hatenablog.com 元の記事は新明解第八版の問題点を書いたものですが、三国の第七版も同じ問題を持っていました。 -たち(接尾)〔人…

三国第八版:ディープ

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 「ディープ」という項目で、「深い。濃い。」という語釈では「新宿の-なゾーン」という用例がどういうことを表すのかわからないだろう、というこ…

三国第八版:おとな・こども(2)

前回の続きです。 おとな 1からだがじゅうぶんに成長した人。成人。(以下略) こども 1おとなになる前の人。〔動物にも言う〕(以下略) 三国第八版 この記述では不十分だ、というのが前回の話でした。 「おとな」を「からだがじゅうぶんに成長した人」と…

三国第八版:おとな・こども

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。 「おとな」の項について。 niwasaburoo.hatenablog.com 三国第七版の説明は循環しています。 おとな 一人前に大きくなった人。成人。 一人前 (り…