各種の国語辞典の最初のページを見比べて、いろいろ面白いと感じることを発見しているのですが、今日は「アーベント」について。
「アーベント」の原語がドイツ語で、「夕方(・晩)」を指すことはどの辞書も一致するのですが、さて、日本語としては何を意味するか。
《夕方・晩の意》夕方から始まる音楽会・映画会・講演会
などの催し物。…の夕べ、の意で用いる。「ワグナー―」
あたりが平均的なところでしょうか。
ここで問題なのは、「夕方から始まる」というところ。
大辞林も「夕方から開く~」ですが、広辞苑は「夜に開く~」です。
この二つははっきりちがいます。「夕方」を含んでいいかどうか。それとも、日本語では「夜」だけなのか。
新明解は、何と「夜間に催される」としています。
「夜間」はまずいでしょう。「夜間営業」とか「夜間飛行」というと、かなり遅い時間帯を意味します。「夜間高校」は確かにそれほど遅い夜ではありませんが、「夜間に催される」というと、私の語感では夜の十時頃から始まりそうです。
三省堂国語は、結局は「夜」説なのですが、「アーベント」の項を見ただけではそこのところはわかりません。
アーベント ゆうべ(のもよおし)。「ベートーベン~」
さて、「ゆうべ」とはいつのことか。
「ゆうべ」というと、現代語でまず浮かぶのは「昨晩」の意味でしょう。「昨晩の催し」?
もちろん、ここでの「ゆうべ」は「昨晩」の意味ではありませんし、また、「ゆうべ」だけでも「アーベント」の語釈になっているということを示した書き方なのでしょう。わかりにくい語釈です。
「ゆうべ」の項を見ると、
ゆうべ ②〔何かのもよおしものをする〕夜。「音楽の夕べ」
という説明があります。ここで、「アーベント」を「夜」の催し、と解釈していることがわかります。
結局、「ゆうべ」のこの意味がすぐ頭に思い浮かぶようでないと、上の「アーベント」の語釈がわからないということです。つまりは、あらかじめ「アーベント」の意味をおおよそ知っていることが、何となく前提にされてしまっています! これはまずい。「三国」としては珍しい、わかりにくい項目になっています。
さて、実際の「アーベント」の用例をネットで見てみると、ほとんどは6時以降に始まる催し物で使われています。季節によって、「夕方」か「夜」かが分かれそうです。
早めだった例として、次の二つを見つけました。
2013年10月5日(土)に、ベーゼンドルファー東京にて
「Bosendorfer Wiener Abend(ベーゼンドルファー ヴィーナー・
アーベント) vol.5」を開催いたします。
◆ 日 時 : 2013年10月5日(土) 16:30開演 ※16:00開場
まずこちらは、4時半からで、まさに「夕方から」です。
次のものには驚きました。
アーベント ~J.S.バッハの世界~
2013年9月13日(金) 開場13:30 開演14:00
何と2時(昼間!)に始まります。これは「アーベント」というより、ただの演奏会でしょう。しかし、芸大の学生たちですから、「アーベント」の元の意味を知らないはずがありませんが。
さて、日本語の「アーベント」はいつから初めていい催しなのでしょうか。