ことば・辞書・日本語文法(2)

日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ひとみ

新明解の奇妙な語釈の話。

 

  ひとみ  目の中心にある小さな円形の部分。医学的には瞳孔(ドウコウ)を指す。
  〔広義では、目全体を指す。例、「つぶらな-/二十四の-/-を凝らす=一つの物をじっと見つめる」〕

   青い-の目    [新明解国語辞典第七版]

 

ざっと読むと、何となくいいような気もしますが、よく考えると変なところがあります。

まず、初めのところ。「目の中心にある小さな円形の部分。」と「医学的には瞳孔(ドウコウ)を指す。」という2つの説明は、結局同じことを言っているのかどうか。

まあ、同じだと考えましょう。wikiで「瞳孔」を見ると、「瞳」と同じとしています。

すると、最後の例句、「青い-の目」がおかしくなります。

瞳孔が青いわけがない。

その間にある、「広義では、目全体を指す。~」は、この「青い-の目」という例とは別の話でしょう。(「目全体を指す」のだから、この例に入れると「青い目の目」になってしまいます)

さて、何をかんちがいしているのか。

もちろん、「青い瞳の目」という時の「ひとみ」は、瞳孔の回りの光彩の部分を指しています。それが青い目、つまりいわゆる「紅毛碧眼」のイメージです。ドナルド・キーンの本の題名(翻訳)に「碧い目の太郎冠者」というのがあります。

先ほどの、「目の中心にある小さな円形の部分。」が光彩のことを言っていると解釈するか。でも、すぐそのあとで「医学的には~」と続けているのとうまくつながりません。「ひとみ」は、瞳孔も指すし、光彩を含めて指すこともあるのです。

「広義では、目全体を指す。~」というのを、この光彩の部分のことを言っていると解釈すればいいのでしょうか。しかし、新明解の「め」を見ると、「目全体」ではありえません。新明解によれば「め」とは、

 

  め【目・《眼・《瞳】

    物を見る働きをする器官。人間では顔に左右対称に二つ有り、顔だちを特徴づける中心となる。
   〔眼球と視神経とから成り、それを保護するものに、まぶた・まつげと眉毛(マユゲ)が有る〕

     青い-〔=瞳(ヒトミ)〕 -を開ける(つぶる) -が疲れる
     -がいい〔=視力が強くて、遠くの(細かい)物までよく見える〕 (以下略)
               [新明解国語辞典第七版]

で、「眼球全体」ということになってしまいます。「広義では、目全体を指す。」などと言ってはいけないのです。

そもそも、この「目」の語釈も(例のあげ方も)おかしいので、こちらもしっかり書き直す必要があります。

  (1)「目」も「瞳」も、光彩の部分を指すことがあるということ、

  (2)「目」には「眼球の、外から見えている部分」、つまり瞳孔と虹彩とそのまわりの、横に細長く見える「白目」の部分を含んだ全体を指すことがあるということ

を、それぞれ分けて説明し、適切な例をつけていくことが必要です。(「目を閉じる」のは、「眼球全体」を「閉じる」(??) のではなく、その外から見えている部分を、まぶたで見えなくすること、です。もちろん、「瞳」だけでもありません。(「瞳を閉じる」という表現もありますが、、、)

 

新明解は、前から「瞳」の語釈がおかしかったのです。第六版を見ると、

  ひとみ 「瞳孔」の和語的表現。〔日本人の場合、黒〕

 という、誤った説明がありました。いや、「日本人の瞳孔が黒である」ことは、確かにそうなのですが、瞳孔は人類みな、黒のはずです。それを「日本人の場合」と限定するのは、何かかんちがいをしています。これも、「青い瞳」を誤解したのでしょう。

新明解という辞書には、どうしてこういうとんちんかんな項目がしばしばあるのでしょうか。