ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

青田

前回の「青菜」から「青」つながりで「青田」を見てみます。

 

 青田〔名〕 稲の葉が青々と育った田。特に、まだ稲の実りきらない時期の田。   [明鏡国語辞典 第二版]

 

「青田」自体は上の説明で問題はないでしょう。よく話題になるのは「青田買い」です。

また、三省堂国語辞典の語釈がちょっとおかしいです。

 

  青田買い 〔もと農業用語〕有望な人を、前もって確保すること。会社が、卒業前の学生に採用を約束するなど。〔あやまって、青田刈り〕 (三省堂国語 第七版)

 

「青田刈り」について述べた部分はあとで触れるとして、「会社が~」のところ。「卒業前の学生に採用を約束する」というだけなら、ごくふつうの「内定」に過ぎないんじゃありませんか?

それが「常識的な時期よりも早く」という意味合いが必要なんじゃないか。

 

  三省堂現代新 [俗語]卒業するよりずっと前に、学生と入社契約を結ぶこと
  新明解 〔俗に〕最終学年になって間も無い(いたる前の)学生と入社契約を結ぶこと。

  新潮現代 就職が売り手市場の場合、卒業見込みがはっきりしないうちに企業が卒業後の採用を決めること

 

それぞれ、その点を強調しています。新潮の「売り手市場の場合」という指摘は鋭いですね。

岩波は「早い時期から」、明鏡は「早々と」とごく簡単ですが、いちおう書いています。

三国の編者(執筆者)は、どうもうっかりして当たり前のことを忘れる傾向があるようです。(前々回の「雑草」の語釈)

それに、〔もと農業用語〕という説明も、できれば詳しく書いて欲しいところです。これについては新明解がピシッと書いています。

 

  【青田買(い)】 稲のとりいれ前に、収穫高を見越して前もって(安く)買うこと。〔戦前、米穀商などが、金に困った米作農家を相手に行なった〕 [新明解国語辞典第七版]

 

この記述の当否は私にはわかりませんが、正しいなら、非常によい解説だと思います。この元の意味と、新潮現代の言う「売り手市場の場合」とでは、状況が反対の場合の使い方になっている、ということですね。(もちろん、それがよくないということではありません)

次に、「青田刈り」の件。三国は「あやまって」と書いています。新明解も同じです。

明鏡・学研は「俗に「青田刈り」とも」で、「俗」ではあるけれども認める、という書き方です。

さらに、例解新は「「青田刈り」とも言うようになった」と新しい言い方として認めています。

大辞林は、「企業が,学生の採用を早い時期に決めること。青田刈り」とごくふつうの言い方として書いています。そして、「あおたがり」の項は

  ①実らないうちに稲を刈り取ること。青刈り。

  ②「 青田買い 」に同じ。

としています。

それに対して「デジタル大辞泉」は、

   稲が未熟なうちに刈り取ること。

  2「青田買い2」の誤用。

で、三国・新明解の「誤って」と同じ立場です。 

まあ、「青田刈り」では、まだ実らないうちに刈ってしまうようで、「有望な人を、前もって確保すること」という意味からずれてしまいますが、これもことばの変化として認めるかどうか。

私は、今のところ「俗」扱いぐらいがいいんじゃないかと思います。

なお、「デジタル大辞泉」は、「青田買い」の項に文化庁のアンケートの結果までのせていて有益な情報になっています。