また三省堂国語辞典ですが、、、。
愛くるしい 〔子どもなどの顔やしぐさが〕見るからにかわいらしい「-笑い顔」[派生] 愛くるしげ。愛くるしさ。
愛らしい 愛情をいだかせるようすだ。かわいらしい。「-しぐさ」[派生] 愛らしさ。
どちらも「かわいらしい」ことに違いはないとして、さて、微妙な意味合いの違いをどう説明するか。
「愛くるしい」は「〔子どもなどの顔やしぐさが〕」という限定があります。では、「愛らしい」のは何か。用例は「しぐさ」ですが、もっと広い対象について言えるのか。
また、「見るからに」と「愛情をいだかせるようすだ」の違いは何なのでしょうか。
見るからに(副) ちょっと見ただけですぐわかるようす「-強そうな男」
「愛らしい」も「ちょっと見ただけですぐわかる」ことだと思いますが。「愛情をいだかせるようすだ」も「愛くるしい」に当てはまるのでは?
それに、「愛情をいだかせるようすだ」というのは、何が、何に対して「いだかせる」のか。読んですっとわかるような書き方とは言えません。これがすぐわかるのは、(いつも言っていることですが)結局「愛らしい」の意味・用法を元々知っている人です。この語釈・用例を見て「愛らしい」を初めて理解するような人ではありません。
新明解国語辞典を見てみます。
あいくるしい (形)〔「くるしい」は、強意の接辞〕
子供や仔犬(コイヌ)・仔猫(コネコ)などの表情やちょっとしたしぐさが、いかにもあどけなくてかわいらしく感じられる様子だ。 「-笑い顔」 -さ -げ
あいらしい (形)〔幼児や小さな動物の表情やちょっとしたしぐさ、可憐な草花などを見て〕いかにもかわいらしいという印象を受ける様子だ。 「-花」 -さ
[新明解国語辞典第七版]
「あいくるしい」は人と動物だけで、「あいらしい」は草花が加わります。この二つのことばが形容できる名詞の範囲に差があるという判断です。その差をはっきり示しているわけです。
こういう違いに詳しくあるべき類語辞典には何と書いてあるか。
愛くるしい 人・人形・動物などの、小さなものあるいは幼児性を感じさせるものの愛すべき様子。「~子供の笑顔を見ると思わず抱きしめたくなる」「子鹿のひとみはとても愛くるしかった」
愛らしい 人や動物などのふるまいや様子をかわいらしく思う様子。「~若妻のしぐさに鼻の下を長くする亭主」「庭先に咲く~一輪の花」「幼児の描いた~絵」◇「愛くるしい」よりも広く生物全般、またはそのしぐさや様子についていう。
講談社 類語大辞典
語釈では違いがはっきりしませんが(「幼児性を感じさせるもの」?)、用例と最後の注記を見ると、「愛らしい」のほうが対象が広い、という点で新明解と一致します。「亭主」の例はあまり感心しませんが、用例が多いのはとてもよいことです。
結論:三省堂国語辞典は、「愛らしい」の語釈を工夫し、用例をもっと出すべきです。