かわいい・かわいらしい
前回は「愛らしい・愛くるしい」について考えたのですが、「どちらも「かわいらしい」にことに違いはないとして」などと書いてしまいました。では、「かわいらしい」とはどういう意味でしょうか。また、「かわいい」とは。
かわいらしい 〔小さいものなどが〕ほほえましいようすだ。「-口・-しぐさ」
かわいい 1〔子どもなどが〕大切で、守ってやりたい感じだ 2〔小さいものなどが〕愛情をいだかせるようすだ「-女の子・-花・-声」 (3~5省略)
(三省堂国語辞典)
「愛情をいだかせるようすだ」というのは「愛らしい」の語釈にもありました。三国の編者が好きな表現のようです。「ほほえましい」とはどういう様子を指すのでしょうか。
ほほえましい ほほえみたくなるように、好ましい。「-光景」
(三省堂国語辞典)
「小さいものなどが、ほほえみたくなるように、好ましい」。ふーむ。難しいですねえ。これ以上、どう言ったらいいのか。
「かわいい」の、「大切で、守ってやりたい感じだ」というのはいいですね。確かに、そういう気持ちを持ちます。
新明解を見てみましょう。こういう語は、頑張って書きたがる辞書です。まず、「かわいい」から。
かわいい 〔文語「かははゆし」から来た「かはゆい」の変化と言われ、原義は、ほうっておけば悪い事態になるのをそのまま見過ごせない、の意〕
1親が我が子にいだく心情のように、どんなことがあっても無事に過ごせるように守ってやらなければならないという気持に駆られる様子だ。「我が子を-と思わない親はいないだろう」
2無心に親に甘える子供のように、表情やちょっとしたしぐさなどにほほえましさを感じ、いつまでも見守っていたいといった感情をいだく様子だ。「笑顔が-女の子」「口元がかわいく開いたペットの-子犬」「-声で歌う」「頑固そうなあの男にも、意外に-〔=心根のやさしい〕ところがある」
3(a)小さくて頼りない(弱弱しい)感じがするところに親しみやすさをいだかせる様子だ。「-〔=小さいなりに観賞に堪える〕花」「髪に-リボンをつける」
(b)同種の他のものと比べて小さい意。「掌に収まる-ラジオ」「邸どころか何とも-家」
[新明解国語辞典第七版]
頑張って書いていますね。1を特に別に書いたところに、この語への思い入れを感じます。では、「かわいらしい」は。
かわいらしい 目にしたものがいかにも「かわいい23」といった印象を与える様子だ。「-笑顔を浮かべる少女」「かわいらしく挨拶(アイサツ)する子供」
[新明解国語辞典第七版]
こちらはあっさり書いています。「いかにもかわいい」つまり、より強調した言い方だ、ということでしょう。「かわいい」の1に当たる用法はないとしています。
次に、類語大辞典。
かわいい 小さかったり、幼さや幼さを含みもつ美しさ、素直さなどが感じられて、愛さずにはいられない様子。「~女の子」「~顔」「~しぐさ」「~子犬」「~靴」「年のわりには~ことを言う」「だれでも自分が~」「~子には旅をさせよ(子供は世の中に出して苦労をさせるのがよい)」
かわいらしい 小さくて、いかにもかわいいと感じられる様子。「お隣の息子さんと~お嬢ちゃんが駅前を歩いていたわよ」◇「かわいい」よりも心理的な傾斜が少なく、対象の様子を客観視するニュアンスがある。
用例が多いのはいいのですが、「自分がかわいい」のような、他の辞書ではかなり別の意味・用法として扱われているものまで一緒にしているのはちょっと感心しません。
また、「かわいらしい」は「かわいい」よりも「対象の様子を客観視」しているという注記には、ちょっと首をかしげてしまうのですが、どうでしょうか。
「かわいい」「かわいらしい」「あいらしい」「あいくるしい」の4語をどう説明するか。これはなかなか難しい問題のようです。