ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

い(位)

三省堂国語辞典から。

 

  -い 位(接尾) ①くらい。順位。「第一-・三段-」②死んだ人の霊(レイ)をかぞえる尊敬語。「英霊百-」③体位。「正常-」

 

①の語釈についても、細かく言うといろいろ言いたいことはあるのですが、それは今回は言わないことにして、この③の用例です。

「正常位」とだけ、例を示して、その意味が利用者にすぐわかるのか。今時の中学生は、こんなことばは当然知っているだろうと編者は考えているのでしょうか。

かりに、わからない人がいたら、「せいじょうい」という項目があるかどうか引いてみるのでしょうが、そういう項目はありません。

では、「体位」を引いてみるとどうなるでしょうか。

 

  たいい 体位(名) ①体格・健康・運動能力などをまとめて言うことば。「-の向上」②からだの位置・姿勢。「〔介護を受ける人の〕-変換」

 

この①の語釈で考えると、「正常位」とは「正常(な)体格・健康・運動能力など」の意味になってしまいます。何の指定もなければ、基本的な①の意味用法だと考えるのが当然ですから。

そう解釈されないためには、上の「位」の③のところで、「体位(2)」とでもして、「体位」の②の意味だよ、と指定しておく必要があります。そうしておけば、「正常位」とは「正常なからだの位置・姿勢」という、より自然な意味として解釈されるでしょう。

しかし、それでもまだ「正常位」の一般的な意味にはたどりつきません。まったく、こう書いていて、少しアホらしくなってきます。

用例に出すことばは、その辞書の中できちんと意味が解釈できるようにすべきです。

「正常位」ということばは、まじめに、ふつうに使われることばですから、大きな辞書には当然あるだろうと思ったのですが、広辞苑大辞林にはありません。デジタル大辞泉にはありました。

 

  せいじょう‐い【正常位】性交の際、仰向けになった女性に男性がおおいかぶさるような体勢。

 

このように、まじめに記述をする辞書が、用例にこの語を使ってもいいのです。三省堂国語辞典の編者は、ちょっとふまじめなのではないでしょうか。