ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

暦(の上)

「秋」の話の続きです。

明鏡国語辞典の「秋」の説明の中に、「陽暦では九~十一月、陰暦では七~九月。暦の上では立秋から立冬の前日まで、天文学では秋分から冬至まで。」という部分があり、それはそれでなるほど、と思ったのですが、改めて考えると、「暦の上」とは何のことかと思います。

 

  暦  一年間の月・日・曜日・祝祭日・月の満ち欠け・日の出・日の入り・干支えとなどを日を追って記したもの。七曜表。カレンダー。「━の上ではもう春だ(=立春になった)」△「日か読み」の意。
           [明鏡国語辞典 第二版]

 

陽暦」と「陰暦」はどちらも「暦」のはずです。では、「暦の上」とは? 

上の用例では、立春になることが「暦の上で春になる」ことのようです。

 

  りっ‐しゅん【立春】 二十四節気の一つ。暦の上で春が始まる日。太陽暦の二月四日ごろ。
       [明鏡国語辞典 第二版]

 

ここにも「暦の上」とありますが、その説明は辞書の中で探し当てられません。「二十四節気」を見てみます。

 

  にじゅうし‐せっき【二十四節気】 太陰太陽暦で、一太陽年を太陽の黄経に従って二四等分し、それぞれに季節の名称を与えたもの。春は立春・雨水・啓蟄けいちつ・春分清明穀雨、夏は立夏・小満・芒種ぼうしゅ・夏至小暑大暑、秋は立秋処暑・白露・秋分寒露霜降、冬は立冬小雪・大雪・冬至小寒大寒に分ける。二十四気。
    [明鏡国語辞典 第二版]

 

さて、難しくなりました。「太陰太陽暦」だそうです。

 

  たいいんたいよう‐れき【太陰太陽暦】 月の満ち欠けを基本にして、太陽の運行を考えて修正を加え、季節とのずれを少なくした暦。一九年に七回の閏月うるうづきを設けて一三か月の一年をつくる。陰暦。旧暦。
△一般に「太陰暦」「陰暦」「旧暦」といわれるものはほとんど「太陰太陽暦」のこと。日本では一八七二(明治五)年まで用いられた。
      [明鏡国語辞典 第二版]

 

はあ。つまりは「陰暦」のことだそうです。

あれ? 初めの「秋」のところでは、「陰暦では七~九月。暦の上では~」とありました。つまり、「陰暦」と「暦の上」は別のものを指していたはずです。

さて、わからなくなりました。「暦の上」って何なんでしょうか。

「秋」のところで、明鏡の説明を紹介したあとで、「広辞苑大辞林などもほぼ同内容」と書いてしまいましたが、不正確でした。広辞苑には「暦の上」つまり「立秋から立冬の前日まで」という記述はなく、大辞林は、

 

  陰暦では七月から九月まで。また、二十四節気では立秋から立冬まで。

 

と書いています。「暦の上」とは書いていません。

また、デジタル大辞泉は次のように書いています。

 

  日本では9・10・11月をいう。暦の上では立秋から立冬の前日まで(陰暦の7月から9月まで)

 

この書き方だと、「暦の上」とは陰暦のことと読めます。結局、そういうことなのでしょう。「立秋から立冬」は、ほとんど「陰暦の7~9月」と重なるというわけです。

つまり、明鏡の書き方がおかしかったんじゃないか。「暦の上では」を陰暦とは別のことのように読ませてしまうのは誤りなのではないか、と思うのですが、どうでしょうか。