ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

赤帽

「赤」つながりでこの語を。

 

  赤帽 ①赤い色の帽子。②駅で旅客の手荷物を運ぶ職業の人。ポーター。〔赤い帽子をかぶる〕

             三省堂国語辞典

 

「赤帽」は「赤い色の帽子」か。

確かに、「赤帽」は「赤い色の帽子」かもしれませんが、これは、辞書の語釈としては問題があります。

「なるほど。赤帽は赤い色の帽子のことをいうんだな。じゃあ、あの女性は赤帽をかぶっている、って言っていいのかな」と考える人が出かねないからです。

「AはBである(AならばB)」とき、「BはAである(BならばA)」とは限らない、ということはよく知られていることだと思いますが、辞書の語釈も同じように考えていいか。

「Aとはなになにのことである」と辞書にあれば、「なになにのことをAと言う」ということと解釈されます。つまり、「辞書による定義」と見なされるのです。

「赤帽」とは「赤い色の帽子」である、と辞書が書けば、「赤い色の帽子」のことを「赤帽」と呼ぶのだ、という定義になってしまいます。

しかし、すべての赤い帽子が「赤帽」ではありません。「赤帽」とは、

 

  新明解 〔運動会などの時かぶる〕赤い色の帽子。

 

などのことを特別にそう言うわけです。「小学校の」をつけたほうがよりわかりやすいかもしれませんが、こういう限定をつけないと、すべての赤い帽子になってしまいます。

 

次に、三国の②の語釈、「ポーター」について。

別の辞書では次のように書かれています。

 

  新明解 ②〔駅で〕手荷物を運んだ職業の人。

  明鏡 ②~のを職業とした人

  学研 ②~を運搬した人。現在はない。

 

学研の「現在はない」という情報を、新明解の「運んだ」、明鏡の「職業とした」も表しているのでしょう。三国も、何らかの形で同じ情報を示すべきです。

ということで、三省堂国語辞典の「赤帽」の項は、改訂すべき項目です。