ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

明かり

語釈がよくわからない項目を。

 

 明かり ①〔光を出すもとが見えないで〕いちめんに明るい状態。「-がさす・雪の-」                 三省堂国語辞典

 

語釈の「いちめんに明るい状態」というのをそのまま用例に入れてみると、「<一面に明るい状態>がさす」??

「明かり」は「状態」ではありません。「<明かり>がさす」と、その結果、「一面に明るい状態」になるのでしょう。

新明解も同じような語釈です。


     新明解 ②〔どこからともなく光が差し〕一面に明るい状態。「-がさす/星-」

(三国と新明解の語釈が同じというのは、同じ筆者が書いたものである可能性があります(見坊・金田一春彦とか)から、どちらかが「まねた」というわけでもないでしょう。)

 

私には、三国も新明解も、どうしてこういう語釈をするのかわかりません。「どこからともなく」差す<光>を「あかり」というのではないでしょうか。(あとで見る他の辞書はそう書いています)

「明かりがさす」とはどんな状況で言うのでしょうか。例えば地下鉄の工事現場で事故があり、生き埋め状態で助けを待っているとき、「明かりがさす」と言えば、(どこからだかわからないが)光が差し、まわりが見えるようになる。その時、差してきた「光」を「明かり」というのではないでしょうか。

また、「月明かり/星明かり」と「雪(の)明かり」は違います。

三国の「雪の明かり」は、たしかに、景色全体がぼんやりと明るい様子を言うのでしょうから、「光を出すもとが見えないで いちめんに明るい状態」ということの例になる、ということでしょう。

一方、新明解の「星明かり」は、星から光が来ているのですから、「どこからともなく」とは言えません。

 「明かり」は各辞書で語釈がけっこう違います。(省略した三国の②、また明解の①は「あたりを明るくする/光を出す物。電灯・灯火など。」です。)

大きく三つに分けてみます。

 

 a 暗い中であることが必要、という語釈
      岩波 暗い中に認められる、まぶしいほどではない光。「ネオンの-」

     特に、照明用の光。「-をともす」「-がつく」(略)

     △「雪(の)-」のように、光の反射にも言う。  
   例解新 ①くらい中での光。「明かりがさす。明かりをとる。月明かり。雪明かり。」

 bあたり/周りを明るくするもの
   三省堂現代 ①あたりを明るくするもの「雪の-・月の-」

     ②照らすための光「-をつける」

       現代例解 ①あたりを明るくする光。物を明らかに見せる光。光線。

     「外の明かりがもれてる」「雪明かり」「月明かり」

   明鏡 ①周りを明るくする自然の光。「窓から-が差し込む」「夕暮れの薄-」

     「月[雪]-」 ②周りを明るくする人工の光。(略)

  ▽自然と人工で対比しています

   大辞林 ①明るい光。光線。「月の-」「-がさす」 
 ▽ 強いライトの光も言えるでしょうか 。「太陽/日のあかり」など。

 cもっと単純に 
   学研 ①光。②ともし火。灯火。③電灯などの光。ライト。
      新潮 ①明るさ。光。光線。

 

私の判断では、岩波の線がいいように思います。さらに、「あかりがさす/さしこむ」のような例があればもっといいのではないでしょうか。