ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

「い」の漢字の順

久しぶりに。

 

いくつかの国語辞書の「あ」と「い」の初めのほうを見比べて、いろいろ考えているのですが、三省堂国語辞典の「い」の初めの漢字一字で表される語の順番が気になりました。

 

第六版では次のような順になっています。

   第六版  井-伊衣亥-医易-胃威偉-異意緯  

画数の順かと思うと、一か所違います。それぞれの画数を調べると、

             4 - 6 6 6 - 7 8 - 9 9 12 - 11 13 16

となります。「偉」の位置が違います。

これが、第七版ではまた微妙に変わります。

   第七版  井-亥伊衣-医易-威偉胃-異意緯

「亥」が上がり、「胃」が下がりました。この画数は、

             4 - 6 6 6 - 7 8 - 9 12 9 - 11 13 16

となり、「偉」がまた一つ前に来ました。これは、どういう理由によるのでしょう。

三国の「この辞書のきまり」p.(8)によると、同じ仮名の語は、品詞の順により、同じ品詞の中では漢字の画数順によるはずなのですが。

品詞が違うのは「偉」が(形動ナリ)であるだけで、あとは名詞です。

そもそも第六版の順序は何によるのか。そして、それを「改訂」した第七版はどういう理由で変更をくわえたのか。なぞです。

 

ある人の仮説です。「亥」を「井」の次に置いたのは、この二字の歴史的仮名遣いが「ヰ」であるという共通点を示したいからではないか、というのです。なるほど。

もう一つの仮説はこうです。

「胃」が下がったのは、こうすることによって、「威」と「偉」が、この辞書が「→ ←」を使って示す「かき分け注意」の関係にある語であることを同じページで示せるからではないか。もし「胃」が「威」の前にあると、「偉」がちょうど次のページに押し出されてしまい、「→ ←」の表示がわかりにくくなるから。

これも、まったくささいなことですが、確かにその通りです。このことに気付いた人は大した観察力・推理力だと思うのですが、さて、それにしても、辞書編集者というものは、そんなことを考えて語の順番を並び替えるものなのでしょうか。「この辞書のきまり」で書いた規則を破ってまで。