ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

漢字一字の語で「衣」。三省堂国語辞典から。

 

  い 衣 [1](名) 着るもの。着ること。「-食住・-生活」

     [2](造語)〔-衣〕〔いちばん上に着る〕衣服。「作業-・消毒-」

 

[1]のほうは名詞であるというのですが、その用例の中での用法は名詞とは言い難いのでは? 「衣食住」も「衣生活」も一つの名詞でしょう。つまり、「衣」は造語成分と見なされかねません。

「衣生活」の「衣」は名詞で、「作業衣」の「衣」は造語成分だというのは、分析として正しいのかどうか。そのような理論的な問題は私にはわかりません。

「衣・食・住」はそれぞれ独立した名詞で、「衣食住」は「複合名詞」なんだ、と言えないことはないでしょうが、そんなことを主張するより、「衣」の名詞としての用例をはっきり示すほうがいいでしょう。

他の辞書、例えば明鏡は「衣を整える」、岩波は「衣も食も」という例をあげています。これらの使われ方を見ると、「衣」は名詞だとはっきり言えます。

[2]の〔いちばん上に着る〕という注記は、なるほどと思わせる、芸の細かいところです。[1]の名詞の場合は下着まで含みますから。

しかし、「上に着る」という規定は十分かどうか。

同じような用法を持つ「着(ぎ)」を見てみましょう。

 

  ぎ 着・衣 (造語)きもの。「外出-・ふだん-・柔道-」

 

 「衣」は「着るもの」で、「着」は「きもの」です。この違いは? まあ、同じなのでしょう。それはいいとして、ここの用例も「上に着る」ものと言えないか。

他の「衣」と「着」の用例を見てみないとわかりませんが、ここにあげられた例を見る限りでは、「衣」のほうは、何らかの限定された業務に使う(特別な)服、という感じがしますが、どうでしょうか。

そういう意味で、「着」のほうが広い。

もしこのとらえ方が正しいとするなら、「ある仕事のための」とか「特別な目的のための」、「上に着るもの」とするといいのかな、と思います。