ことば・辞書・日本語文法(2)

日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ウェーデルン

三省堂国語辞典から。この「ウェーデルン」ということばを知らなかった人は、次の説明でどういう意味かわかるのでしょうか。

 

  ウェーデルン〔ドWedeln〕〔スキーの〕連続小回り回転。

 

小回りに連続回転するとは、ぐるぐる回るだけ? フィギュアスケートのスピンのように? まさか。

他の辞書を見ると、もう少しわかってきます。


    新選 スキーで、小きざみに連続して回転しながらすべる技術。
    集英社 (スキーで)小回りの回転を連続的に行いながら滑降すること。また、その技術。

 

まず、「回転」というのは「回転しながらすべる」ことであること。当たり前だといってはいけません。フィギュアの「スピン」は「すべりながら」ではありません。スキーでも、モーグルだと空中で回転したりしますし。

さらに、スキーの「回転」の場合は「すべる」のと同時に「滑降する」ことが必要で、新選は(三国よりはいいとしても)不十分です。(cf. 距離競技) 

それにしても、どこでどう「小回りの回転」をするのか、ここでの「回転」とはどうすることか、集英社の説明でもわかりません。

 

  回転 (名・自他サ) [1] ①軸を持つものが、まわること。また、まわすこと。「エンジンの-・-いす」②一つの点を中心にして、(まわりを)まわること。「腕を-させる・頭の-〔=はたらき〕がはやい」③〔経〕(略) [2]〔←回転競技〕スキーの、アルペン種目の一つ。旗門の間が短く、最も小刻みなターンの技術を要する。      (三国)


[2]がスキー用語で、「回転」とは「回転競技」のことだというのですが、それでは「連続小回り回転」がどういう「回転」なのかはわかりません。

とりあえず、この [2] の説明に出てくる「アルペン・旗門・ターン」をみてみましょう。

 

  アルペン〔ドAlpen=Alpの複数形〕①アルプス。「-ルート」②←アルペン種目。

   ・-種目〔スキー競技で〕滑降・回転・大回転・スーパー大回転、およびその複合競技。アルペン(スキー)。→:ノルディック種目。   (三国)

 

ここの「回転・大回転」は種目の名前ですから、やはり「連続小回り回転」の「回転」とは違うでしょう。

 

  旗門 スキーのアルペン種目で、コースを示したポール(に旗がついたもの)。(三国)

 

上の「回転(競技)」の説明の中で、「旗門の間が短く」とありますが、「門」なのだから両側に旗があって、その間隔が短い、ということでしょうか。それなら「狭い」のほうがいい?(知らない、わからない、というのは、こういうことです)

 

  ターン ①回転(すること)。②進路を変えること。「U-」③(水泳などで)折り返し。


「回転(競技)」の中の「最も小刻みなターンの技術」の「ターン」はこれらのどれに当たるのでしょう。「回転競技」なのだから①の「回転」
結局、「回転」の意味は、上の語釈の①、②から考えるしかないようです。②だと、「一つの点を中心にして、まわりを回ること」? スキーで? 

「回転競技」をほかの辞書で引いてみましょう。

 

   集英社 スキー競技のアルペン種目の一つ。斜面のコースにジグザグに設けられた規定の数の旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競うもの。スラローム

    例解新 スキーのアルペン競技の一つ。斜面に立てられた決まった数の旗を、順に右左交互にまわってすべりおり、その速さをきそう。   

 

集英社の「斜面の~旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競う」という説明はていねいです。三国の、非常に省略した、「わかる人にはわかる」説明よりはるかにわかりやすく説明しています。

また、例解新の「旗を、順に右左交互にまわってすべりおり」というところで、「旗門」を通るために(まっすぐ滑るのでなく)回り込む、ことを「回転」というらしい、ということが(なんとなく、ですが)わかります。この「右左交互に」とは、「ターン」の「②進路を変えること」です。

しかし、こうは言ってみても、そうわかるのは既にテレビなどで競技を見て知っているからでしょう。あるスポーツを、全然知らない人に説明するのは非常に難しいことです。


初めに戻って、「ウェーデルン」の「回転」とは、「回転競技」で旗門を回るためにターンするのと同じような動作のことで、「ウェーデルン」は、そのターンをくり返し、小刻みに行うこと、ぐらいに理解すればいいのでしょうか。(正確なことは、私にはわかりません)

三国の「連続小回り回転」という語釈を見て、そもそも「滑り降りる」のは当然であること、そしてそこでの「回転」の意味もわかる人は、既にすべて知っている人でしょう。つまり、三国の語釈は、「その語の意味がわからないから辞書を引いた」人への説明としてはほとんど役に立っていない、と言わざるを得ません。

 前にも書いたことですが、三国の語釈は、その意味を元々知っている人にとっては「要するにどういうことか」がうまくまとめられているのかもしれませんが、その語釈を頼りに、その語の意味を知ろうという人にはまるで役に立たないことが時々(しばしば?)あります。改善してほしい点の一つです。