ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ウエーター・サービス

三省堂国語辞典から。

 

  ウエーター〔waiter〕〔レストランや喫茶店などの〕サービス係の男性。ボーイ。ウエイター。(⇔ウエートレス)

 
「サービス係」というだけでは具体的に何をするかがはっきりしません。「サービス」とは何か。このことばのほうが「ウエイター」より難しそうです。(後でまた考えます)

他の辞書で多いのは「給仕」を使った説明です。

 

     明鏡 ウエイター レストラン・喫茶店などの、男性の給仕人。ウェイター。ウエーター。

 

しかし、「給仕人」と言われてすぐわかる若い人は少ないのでは? それを「ウエーター/ウエイター」の説明に使うのはどうでしょうか。

 

  給仕  1〔古い言い方で〕レストランなどのボーイ。接客係。
    2 もと、役所・会社・学校などで、お茶くみなどの雑用に従事した人。
    3 (自サ変) 食事の席で、飲食の世話をすること。また、その人。   (明鏡)

 

「古い言い方」や「もと、~」ではないでしょうから、3の「食事の席で、飲食の世話をすること/その人」なのでしょう。(「その人」も指せるのだから「給仕人」でなくてもいいのでは?)

この「食事の席」とは、たぶん家族の食卓ではなく、外で食事をする感じでしょう。(「妻が給仕をする」なんて言い方は怖くてできません。「夫が給仕をした」ならありそうですが。)あるいは、客を招いて、大きなテーブルで多少改まった食事をするような。そこで、「飲食の世話をする」というのは、具体的に何をすることでしょうか。

初めに戻って、他の辞書で「ウエイター」を見てみましょう。

 

  例解新 レストランなどで、食べ物や飲み物を運ぶ係の男性。 

 

初めから、このように具体的に書けばいいのではないでしょうか。あるいは、

 

  新明解 〔食堂・喫茶店などで〕客の注文に応じたり飲食物を運んだりする男性

 

のように。注文をとることも大事です。

この2つの辞書のように書いたほうが、「サービス係」や「給仕人」などと言うよりも、すっとわかると思うのですが。

 

次に、「サービス」について考えます。

 

    サービス ①人のために尽くすこと。奉仕。「-精神・家族-・行政-」②無料で、ものや労働を提供すること。「一個-〔=おまけ〕する・ランチ-付きのホテル」 ③安い料金で、ものや労働を提供すること。「-料金・きょうの-ランチ・出血大-」 ④〔経〕物をつくること以外の労働(の提供)。役務。「動画配信-」⑤サーブ。「強烈な-」    (三国)

 

「サービス係」の「サービス」は、どういう意味でしょうか。①の「人のために尽くすこと。奉仕」でしょうか。「家族サービス・行政サービス」という例は、レストランでの「サービス」(お金を払う「客」に対する労働の一種)とは違うようです。(行政サービス」は「奉仕」でしょうか?)②の「無料で」でもないし、③の「安い料金」でもありません。④の「物をつくること以外の労働」? 確かに、厨房で料理を作るのは別の人ですが、「動画配信サービス」という例を見ると、話が違うようです。これは、おそらく次に見る新明解の①の用法と同じものを指すのではないでしょうか。

 

    新明解 ①物を直接作ったりするのではなく、生産者・消費者のために必要な便益を提供すること。金融・商業や交通・通信及び教育・公務・医務・自由業などを含む。「公共-〔=ガス・水道・電気など、一般大衆を受益対象とする事業〕」

   ②相手(客)の満足が得られるように、本来の業務(仕事)以外に特別の便宜を図ったり 気配りをしたり すること。「買った後まで-が行き届く」「部品の方は-〔=ただに〕します」「日曜日は家庭-に努める」「-精神〔=周囲の人を喜ばせようとする気持〕が旺盛(オウセイ)で人気のある男」[語例]「-品 ・ アフター-・ モーニング-・ リップ-」〔=⇒リップ〕

   ③〔テニスなどで〕サーブ。

 

 新明解は(スポーツ以外を)大きく2つにわけて、それぞれをずいぶん詳しく解説しています。しかし、三国の「サービス係」はどれに当たるのでしょうか。①はおそらく「サービス業」という産業の分類ですし、②の「本来の業務(仕事)以外」ではないから、②でもありません。

 明鏡を見てみましょう。

 

 明鏡 ①人のために気を配って尽くすこと。「家族━」「━精神」②商店などで、客に気を配って尽くすこと。また、客が満足するように値引きをしたり景品をつけたりすること。「ビール一杯━しておきます」「━のいい店」「アフター━」③国・地方公共団体・民間団体などが一般の人々のために事業を提供すること。また、その事業。「介護━」④サーブ。

 

明鏡もまた、三国とも新明解とも違った分類のしかたです。「サービス」という語の難しさです。この②の「商店などで、客に気を配って尽くすこと」というのが、三国の「サービス係」に近いでしょうか。

 明鏡でわからない点は、新明解の①に当たる用法はどうなるのかということですが、「サービス業」という項目が別にあるのです。

 

  サービス業 生産に直接関係のない、技能・技術・施設・情報の提供や物品の賃貸などを商品とする産業。通信・金融・娯楽・医療・公務・教育など多種多様。 (明鏡)

 

しかし、ここでの「サービス」の意味は、上の「サービス」の語釈のどれに当たるのか。そこははっきりしません。

「サービス」という語は、「尽くす」で説明されるような、はっきり説明しにくい意味と、「サービス業」のような、社会的にきっちり規定されるべき用法とがあって、その用法全体をうまく分類するのが難しい語だと言えます。