ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

(馬を)あおる

いくつかの辞書で「あおる」という動詞を見ていたら、「馬をあおる」という表現の説明がいろいろ違っていたので、ここに並べてみます。

 それぞれ、「あおる」の一つの用法として「馬」のことをとりあげています。三国だけが「急がせる方法」を書いていません。

 

  三国  〔乗っている馬を〕急がせる

 

これではどのようにして「急がせる」のかわかりません。物足りない感じがします。

 

  現代例解 あぶみで腹を蹴って、馬を急がせる

     広辞苑 鐙で障泥を蹴って馬を急がす

  岩波 あぶみで、障泥をうって馬を急がす

 

  あぶみ  鐙  馬具で、馬の鞍くらの両わきに取りつけて足を踏みかけて使うもの。▽「足踏あぶみ」の意。 (明鏡)

  あおり 馬具の名。鐙(アブミ)と馬のわき腹との間に下げる、泥よけの皮(毛皮)。古来の用字は「{障泥}・{泥障}」。 (新明解)

 

「あおりを蹴る」のと、「腹を蹴る」のは結局同じことと考えていいのでしょう。映画などでよく見る動作です。

 

     三省堂現代新 あぶみを踏んでウマを急がせる

     大辞林 鐙を蹴って馬を進める

  明鏡 〔古〕あぶみをけって馬を急がせる   古語という判断

 

「あぶみを踏む/蹴る」とはどういう動作なのでしょうか。下に向けて強く踏み込むのでしょうか。馬の腹を蹴るのではなく。

 

  新明解 〔むち打ったりして〕馬を急がせる

     新潮現代 手綱を操ってウマを急がせる

 

これははっきり違います。むちや手綱を使い、あぶみは出てきません。

 

さて、それぞれやり方が違います。どれかが正しいのか。それとも、「馬をあおる」のにはいろいろなやり方がある、ということでいいのか。

結局、三国はすべてに共通するところだけを書いているので、それはそれで正しいのだ、と言えるのでしょうか。