ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

右・左

教えて!goo」に「右・左」について投稿しました。

「右端」を国語辞典で引こうとすると、「みぎはし」ではなくて「うたん」で引かなくてはならないのはなぜか、という質問があり、それに答えたものです。

このブログで、かなり前に「右腕・左腕・右側・左側」の話を書いたことがあります。(2015-10-03   右左)(2015-10-06   右・左(2))

そのとき調べたことに、いくつか資料を加えました。

 


 以前、右・左に関する語に関して、国語辞典をちょっと調べてみたことがあります。
  ○は項目あり、×は項目なし、です。

           明鏡 三国 新明解 現代例解 学研現代 例解新 岩波(七版)
  右腕みぎうで    ○  ○   ○    ○    ○    ○   ○
  右腕うわん     ○  ○   ○    ○    ○    ×    ×
  左腕ひだりうで   ○  ×   ×    ×     ×    ×    × 
  左腕さわん     ○  ○   ○    ○    ○    ○   ×

  右側みぎがわ    ○  ×   ×     ×     ×     ×   ×
  右側うそく     ×  ○   ×     ×     ×     ×   ×
  左側ひだりがわ   ○  ×   ×     ×     ×     ×   × 
  左側さそく     ×  ○   ×     ×     ×     ×   ×

すべての辞書で「みぎうで」があるのは、特別な意味があるからですね。(「会長の右腕」)
 大辞林大辞泉は、「ひだりうで」以外は全部あるようです。
それだけ、「ひだりうで」がある明鏡国語辞典は特別だということでしょうか。

 「みぎがわ・ひだりがわ」の明鏡と、「うそく・さそく」の三省堂国語辞典は、ちょうど正反対の選択をしています。話しことば重視と、交通用語重視ということでしょうか。
 例解新国語辞典は「うわん」がなく、「さわん」のみという、他にないパターンで、個性的です。
 野球で実際によく使われることばは「左腕」だということでしょう。

 岩波国語辞典という辞書は、やはり他とは違いますね。「みぎうで」だけです。岩波の「語構成概説」という解説には、
    「要素的な語によって割合たやすくわかるような語はかなり省いてある」
とあり、意識的に「かなり省いて」いるようです。

 

 「みぎ」「ひだり」の複合語がどのくらい辞書にとられているか、手元の辞書を調べてみました。

◇みぎ
 新明解 右腕 右利き 右手 右四つ 
  明鏡  右打ち 右腕 右肩上がり 右側 右利き 右手
      右投げ 右巻き 右四つ
 三国  右打ち 右腕 右肩上がり 右利き 右する 右詰め 右手
      右投げ 右脳 右前 右巻き 右四つ
 岩波  右腕 右肩上がり 右する 右手

◇ひだり
 新明解 左うちわ 左利き 左ぎっちょ 左褄 左手 左党
      左前 左巻き 左回り 左向き 左四つ
 明鏡  左打ち 左うちわ 左腕 左側 左利き 左手 左党
      左投げ 左前 左巻き 左向き 左四つ
 三国  左打ち 左うちわ 左腕 左書き 左側 左利き 左ぎっちょ
     左する 左膳 左褄 左詰め 左手 左投げ 左脳
      左前 左巻き 左四つ
 岩波  左うちわ 左利き 左ぎっちょ 左する 左褄 左手 
      左前 左巻き 左向き

新明解・岩波は「みぎ」は少ないのですが、「ひだり」はけっこうあります。

 

その他に「みぎ-」と言えそうな語を国立国語研究所のデータベースで探してみると、

   右上がり 右あご 右足首 右上 右後ろ 右奥 右肩 右腰
   右サイド 右下がり 右下 右車線 右上方 右ストレート 右旋回 右前方
   右打者 右手首 右手前 右投手 右隣 右投げ 右斜め 右ねじ
   右半身 右ハンドル 右半分 右ひざ 右ひじ 右人差し指 右ページ
   右方向 右頬 右ポケット 右ボタン
   右前脚 右回り 右耳 右胸 右目 右横 右脇

など、かなりたくさんあります。これらをぜんぶ国語辞典に載せようとすると、確かに大変なことになりますし、載せる意味はあまりないでしょう。
では、どの程度まで載せるのがいいか。

 「みぎはし」は、確かに辞書にあってもいい語だと思いますね。