ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

アーバン

三省堂国語辞典の残念な項目を。

  (名)〔urban〕都市。都会。「-ライフ〔=都市生活〕」

これは手抜きと言わざるをえません。

まず、「アーバン」は名詞とは言えません。名詞とは、

 1 格助詞が付いて主語や補語になる。

 2 「-だ/です」が付いて述語になる。

 3 格助詞「の」が付いて名詞修飾をする。

などの用法を持つものを言う、というのが、まあ、一般的な理解でしょう。

 「アーバンが」[アーバンを」「アーバンだ」「アーバンの」

どれもだめでしょう。

また、「都市/都会」で置き換えることもできない。

別の例で言うと、「カメラ」と「写真機」は、この辞書も言うように、「写真機」が〔古風〕であることを除けば、いちおう置き換えられます。

  カメラ/写真機 が壊れた カメラ/写真機 のレンズ

  私の カメラ/写真機 だ

しかし、「日本の 都市/都会 の問題」「大きな 都市/都会 だ」は、

  日本のアーバンの問題  大きなアーバンだ

とは言えない。

こんなことは、三国の編集者には分かり切った話だと思うのですが。

そもそも、「アーバン」は単なる「都会」ではない。

同じ三省堂の新明解は、

  (造語)近代都市としての。都会風の。「近未来型の-ライフ/

  -デザイン・ーリニューアル〔=都市再開発〕」

としています。よりしっかりと、「アーバン」の意味合いを捕らえています。また、造語成分としている点も、三国とは違います。

学研現代新国語も《造語》としています。

明鏡は「他の語と複合して使う」という注記をし、現代国語例解は「他の外来語と複合して用いられることが多い」となかなか細かく指定しています。(岩波は、そもそも項目として立てていません!)

三国は、これらの分析を顧みることなく、単に「名」としています。これはかなり考えた上での結論なのか。

どうも、最初に書いたように、手抜きの項目なのではないか、と思ってしまいます。

もう一つ、ネット上で検索すると、「アーバンな」という形がけっこう出てきます。これは、urban が形容詞なので、それを日本語に取り入れると「-な」がつけられる(cute → キュートな)という一般的な形に従ったものでしょう。「アーバンの」ではなくて「アーバンな」という形で使われることがこれからも増えていくと思われます。