ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ちいさい「っ」

また続きです。日本語の仮名の一つ一つを国語辞典の項目として立てるかどうかという話。

三省堂国語辞典は、「っ」という項目を立てていて、それはいいのですが、内容がどうも変です。

  っ つまる音(オン)。促音(ソクオン)。また、そのかな。カタカナでは「ッ」。

ここまでは、まあ、いいのですが、その後、①から⑦まで、この「っ」が現れる環境を説明します。例えば、

  ①漢字の音読みで末尾の音が替わったもの。「がっき(楽器)〔←がく+き〕」

  ②動詞の音便形としてあらわれるもの。「取って〔←取りて〕」

   (中略)

  ⑦外来語にあらわれるもの。「アップ・バック」  (例は一部のみ)

これはどうなんでしょうねえ。問題は、この字がどういう場合にあらわれるか、ではないでしょう。「っ」は促音を表す、で終わり。あとは、促音がどんな環境に現れるかという問題で、それは「促音」の項目で書くべきことでしょう。日本語の特殊拍と呼ばれるものの出現位置の問題で、「っ」は単にその表記に過ぎません。

同じことは「ん」についても言えます。同じく三国で、

  ん はねる音。撥音。また、そのかな。カタカナでは「ン」。

  ①漢字の音読みで、末尾に来るもの。「安(アン)・感(カン)」

  ②動詞の音便形としてあらわれるもの。「飛んで〔←飛びて〕」(中略)

  ⑦外来語にあらわれるもの。「ペン・マシン・コンセント」

これも変ですよねえ。「撥音」の項目で書くべきことです。もし書くなら。(私は、このような情報、つまり特殊拍の出現位置について、国語辞典が詳しく書く必要はないと思います。音便の例を挙げるくらいでとどめておくのがいいでしょう。)

三国の第四版には、この「っ」も「ん」もなかったはずです。見坊が主幹であった最後の版です。見坊が、もし書くとしたら、こういう書き方をしたでしょうか。