藍と青
三省堂国語辞典で「藍」を引くと、
藍 〘植〙草の名。葉からとった染料は、青よりこく、紺よりうすい。「-色」
とあって、「青は藍より~〔青〕の[句]」を見よ、とあります。で、「青」を見ると、追い込み項目として、
青 (略)・青は藍より出でて藍より青し[句]〔=染料の青は藍を原料とするが藍より青い〕
とあります。この、「藍より青い」がわかりにくいことはないでしょうか。「藍」のほうでは、「青よりこく」と言っていますから。
初めの「葉からとった染料」ですが、明鏡によると、
藍 ②藍からとる濃青色の染料。また、その色。
「青は藍より出いでて━より青し」
なので、「藍」と呼べるわけで、「青よりこく」、しかし「染料の青は藍より青い」となると、さて、どういうことなんだろうか、と考え込む人が出そうです。
もちろん、「染料の青は藍より青い」の「藍」は「藍(色)」ではなくて、植物のほうで、「染料の青」というのは、「染料としての藍」なのでしょう。それにしても「青は~青い」というのも変な感じがします。「濃い」ならいいのですが。
やはり、この格言が「青」と言っているのがわかりにくさを招く元凶なのでしょう。
「染料の青(=藍)は藍(=植物)より青い(=青さが濃い)」と書くのもちょっとしつこいようで。
この辞書を引く中学生は、すっとわかるのかしら。
デジタル大辞泉を見てみたら、
青色の染料は草の藍からとるが、それはもとの藍草よりももっと青い。
とありました。「草の藍」「藍草」と書いているのは、そう書かないとわかりにくいだろうと考えているのでしょう。私と同じ発想のようで、ちょっとうれしい感じです。
また、先ほどの明鏡も、
藍 ②藍からとる濃青色の染料。また、その色。
と言っておいて、すぐ後に何の説明もなく、
「青は藍より出いでて━より青し」
と例を上げていますが、この並べ方だと、格言の中の「藍」は「染料」または「色」のことになってしまうので、よくないんじゃないでしょうか。
いろいろと辞書の語釈を見ていくと、これではちょっとわかりにくいんじゃないか、と思う説明がときどきあります。
辞書編集者は、当然、もともと意味を知っている頭で説明を書くので、意味を知らない人がその説明を読んで何とか意味にたどりつくのだ、ということへの想像力がかけているということが(時々)あるんじゃないか、と思います。