愛飲・愛犬など
三省堂国語辞典で、「愛-」のことばを見てみます。
「愛」の後ろに、動詞的な要素がつく場合。「~すること」の形になります。
愛育 (人を)かわいがってそだてること。
愛飲 〔酒・コーヒーなどを〕日頃から好んで飲むこと。
愛玩 (小さい動物などを)かわいがってあそぶこと。
愛好 好きで、したしむこと。
愛唱 好きで歌うこと。
愛読 好きで〔本や雑誌を〕読むこと。
これらは、わかりやすいもので、動詞ですから「~すること」で終わります。
愛煙 タバコが好きなこと。
「煙」は名詞ですが、三国は「愛煙する」という動詞を認めています。「~こと」です。
次に、はっきりした名詞は、そのもの自体を指します。
愛器 愛用の楽器・器具。
愛機 気に入ってたいせつにあつかう、機械・写真機・飛行機・機関車など。
「愛用」と「気に入ってたいせつにあつかう」の違いは何だろうか、とも思いますが、今はそれは問題にしません。
愛児 かわいい(自分の)子ども。
愛息 かわいがっている息子。〔他人の息子について言う〕
以上は名詞ですから、語釈も「~名詞」の形になります。
さて、名詞なのに「~こと」という語釈になるものがあります。
愛郷 自分の生まれた故郷を愛すること。
「愛する(大切な)故郷」ではないんですね。「故郷を愛すること」です。
愛校 自分の学校を愛すること。
愛国 自分の国を愛すること。
愛社 自分のつとめている会社を愛すること。
名詞そのものと「~こと」の両方の用法を持つものもあります。
愛犬 ①かわいがって飼っている犬。②犬をかわいがること。
愛妻 ①大切にしている妻。②妻をたいせつにすること。
愛車 ①愛用の自動車。②自分の自動車をたいせつにすること。
愛書 ①本が好きなこと。②愛読書。
愛猫 ①かわいがっているネコ。②ネコをかわいがること。
さて、どういうことなのか。上の引用では、すべて用例を省略しました。例えば、「愛郷・愛校・愛国」では、共通する例として「~心」があります。
「愛郷心」は、「故郷を愛する心」ですから、「愛郷」の部分が「愛する故郷」という意味で固定してしまうと、「愛する故郷の心」(?)では意味をなさなくなってしまう、ということなのでしょうか。それで、「愛郷」は「故郷を愛する(こと)」という動詞的な意味合いを保っている、のでしょうか。
「愛犬」以下の2つの用法を持つものは、そのものを指す名詞としての用法と、「~家・~精神」などの複合語もあるために、「~すること」の動詞的な意味合いも保っていると言えます。
もう一つ気付いたこと。
愛犬 かわいがって飼っている犬
愛猫 かわいがっているネコ
愛妻 たいせつにしている妻
「かわいがっている妻」ではないんですね。やはり。
しかし、
愛馬 かわいがってたいせつにしている馬
ん? 馬がいちばんいい扱いを受けているようです。
特に馬を愛する執筆者が書いたのでしょうか。