ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

赤潮・青潮

赤と青の両方を。三省堂国語辞典から。

 

  赤潮 〔地〕プランクトンがふえたために赤茶色となった海水。漁業に損害をあたえる。

  青潮  酸素がほとんどふくまれていない海水。青白く変色して見える。

  

赤潮は〔地〕がついているのに、青潮はそうでないんですね。なぜでしょう。(〔地〕というのは、この辞書で「地名・地理・地質」の分野の専門用語である、ということを表します。つまり、「青潮」は日常語?)

それはともかく、酸素がないとなぜ青白く見えるんでしょうね。そもそも、なぜ酸素がほとんど含まれていないのか。その原因を一言でも書いてほしいところです。

他の辞書の「青潮」を見てみましょう。

 

  新明解  海底の有機物が腐敗して酸素をほとんど奪われた状態の水塊が、海面に上昇し、青白く見える現象。

 

腐敗によって酸素が奪われるのですか。それが海面にあがってくる。でも、酸素がないとなぜ青白く見えるのか。酸素って、特に色はありませんよね。

 

  岩波  沿岸部の海水中の硫化水素が紫外線に反応して青白い帯状にわき上がり漂うもの。水中の酸素が欠乏し、魚や貝を害する。

 

え? 硫化水素が紫外線に反応して? ずいぶん難しくなってきましたね。青白いのは硫化水素ですか。「有機物の腐敗」はどうなったのか。

 

  明鏡  硫化物やプランクトンの色素により海水が青色になる現象。酸素の欠乏で魚類の大量死を招く。

 

今度はプランクトンの色素ですか? それで「海水が青色になる」?

そもそも海水の色って、どう言えばいいんでしょうか。青色じゃない? 三国・新明解・岩波の「青白い」というのは、ふつうは色がない水が「青白く」なる、という意味でしょうか。それとも、全体が青い中で、そこだけ青「白く」なるということでしょうか。

 

  広辞苑  海底の有機物の分解によって生じた硫化水素を含む水塊が浮上し、青白い帯状に漂う現象

 

新明解が言うところの「海底の有機物が腐敗して」分解すると、岩波が言う硫化水素が発生して、それが海面にあがってきて、青白く見える、ということ。 これで「有機物の腐敗」と「硫化水素」が関係づけられました。

岩波の「紫外線」はどう関係するんでしょうか。

 

  大辞林  海底の有機物が腐敗するときに酸素を奪われた水塊が、潮流によって海面に上昇し、硫化水素を発生させる現象

 

え? ちょっとまってください。海底で有機物が腐敗するとき、酸素が奪われるだけですか? 硫化水素は、それが海面に上昇してから発生する?

 広辞苑の説明と、はっきり対立するんじゃありません?

 

  デジタル大自泉  赤潮のうち、比較的緑色に見えるもの。また、有機物の分解に酸素が消費され、酸素の乏しくなった海水が水面に上昇し、青白く見えるもの。水生生物に被害を与える

 

え?え?え? 青潮って、赤潮の一種だったんですか! しかも、「緑色」ですか。「青白い」んじゃない。でも、なんで色が違うのかを説明してくれないと。こっちは硫化水素の話はなし。

 

青潮」の化学現象自体に違いがあるわけでなし、その過程は明らかになっているんだろうと思いますが、辞書によってかなり違いますね。何が何だかわからなくなってきます。

結局、原因など詳しいことを言わない三国が素人にはいちばんわかりやすい?

 

参考までに、wikipedia の解説を。ちょっと長いですが。(岩波の「紫外線」は出てきませんね。)

 

海水に含まれる硫黄コロイド化し、海水が白濁する現象である。これが発生している海は薄い青色に見えるので、赤潮と対比して青潮と呼ばれているが、実際に青い色をしているわけではない。夏~秋に東京湾で多く発生することが知られている。赤潮と同様に魚介類の大量死を引き起こす事がある。

富栄養化により大量発生したプランクトンが死滅して海底に沈殿し、バクテリアによって分解される過程で海中の酸素が大量に消費される。その結果、溶存酸素の極端に少ない貧酸素水塊が形成される。通常、この水塊は潮流の撹乱により周囲の海水と混合されて分散するが、内湾ではこの力が弱い。また、東京湾などでは浚渫工事に伴う土砂の採集跡が海底に窪地として残されており、ここに溜まった水塊は貧酸素環境が特に保たれる。貧酸素水塊中では嫌気性細菌が優占する。嫌気性細菌の一種である緑色硫黄細菌などの光合成細菌の一部は大量の硫化水素を発生させる。この硫化水素を大量に含んだ水塊が湧昇すると、水中の酸素によって硫化水素が酸化され、硫黄或いは硫黄酸化物の微粒子が生成される。微粒子はコロイドとして海水中に漂い、太陽光を反射して海水を乳青色や乳白色に変色させる。多くの場合、青潮は未酸化硫化水素による独特の腐卵臭を伴う。

 

難しくてよくわかりませんが、色の変化の原因は「硫化水素が酸化され」たことによる生成物がコロイド化し、それが太陽光を反射することによる、ようです。

この説明が正しいのだとして、では、国語辞典の中でどれがいちばん正確にまとめているのか。