ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

E

ローマ字の記号としての使われ方です。三国はけっこう詳しく書いています。

 

  イー [1]E・e(造語)〔E-・e-〕〔←electronic〕電子の。インターネットでの。

     「-メール〔=電子メール〕・-コマース〔=電子商取引〕」

     [2]E(名)①〔←east〕東。磁石などで使う記号。

      ②〔音〕ハ長調のミ。ホの音階。「-マイナー」

           ③ 足囲〔=足の親指と小指の付け根を結ぶ周囲の長さ〕をあらわす記号。

       E、EE、EEE、EEEEの順に大きくなる。

 

[1]と[2]をきちんと分けているのはいいですね。

[1]は大文字・小文字の両方を使うこと、造語成分であること。例もあげてあるし、しっかり書いてあります。

さて、[2]のほうは問題が多くあります。この項目の記述自体の問題だけでなく、辞書としての体系的配慮の問題です。

まず①。この「E」はいいとして、東西南北:EWSNの記述が揃っているかどうかを見てみると、W、Sでは方角についての記述なし。エヌは項目自体なし。何ということでしょうか。

「E」が東なら、北はどう表されるのか。そういうことを考え、全体を見回すのが編集者の仕事でしょう。

 

②音楽で、「E」は「ハ長調のミ」であるらしい。では、ハ長調のレやファは、D・Fなのか。

AからGを見てみると、A・B・C・F・Gには音名としての記述がありません。Dは項目自体なし! なぜEだけに音名があるのか。

 

大辞林を見てみると、

 

  E ③ アメリカ・イギリス・ドイツの音名の一(ドイツ語読みはエー)。

     ハ調長音階の第 3 音「ミ」、日本音名の「ホ」。
  D ① アメリカ・イギリス・ドイツの音名の一(ドイツ語読みはデー)。

      ハ調長音階の第 2 音「レ」、日本音名の「ニ」。

 

当然、このように同じ情報が得られるような形の記述をするべきです。三国は、この辺がぜんぜん足りない。

 

さて、②の、「ハ長調のミ」の音名を「E」と言うのだ、というのはまだいいとして、次の「ホの音階」とは何のことかわかりません。これがどういう意味なのかは、「音階」の説明からわかるでしょうか?


   音階 〔音〕一オクターブの楽音を高さの順に配列したもの。

 

そして「ホの音階」の「ホ」とは、

 

   ホ 〔音〕長音階のハ調のミに当たる音。E音。

 

ということで、元に戻ってしまいました。

「ホの音階」の、「ホ」と「音階」との関係をどう理解したらいいかは、この2つの項目の語釈からはわかりません。

さて、いったい何なのか。用例の「Eマイナー」というのは、どこかで聞いたことがあるような気がしますが、なんだかわかりません。

前に「イ」のことを書いた時、音楽関係の用語をいろいろ調べてみましたが、その時の説明から理解できたかぎりで言うと、長(短)音階の第一音をホとする音階、ということでしょうか??

 

最後に、③はずいぶん詳しい説明です。大辞林にもありません。靴屋さんの業界用語なのでしょう。ここの「足囲」はどう読むのでしょうか。ソクイ と読むようですが、読み仮名をつけたほうがいいでしょう。なお、三国にこの項目はありません。「EEE、EEEE」も情報としていいけれど、読めない語の読みを入れてほしかったところです。「そくい」という項目は要らないと思いますが。 

 

ということで、結局、この項目の執筆者はいろいろな方面に気を配って執筆したけれども、他のアルファベットの項目の執筆者はそうでなかったということでしょう。そして、編集者はその不均衡に気づかなかったということです。

三国は、いい辞書ですが、まだまだ直すべきところがたくさんあります。