ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ウエート

三省堂国語辞典の記述が不足している項目です。

 

  ウエート (名) ①重量。重さ。②重み。重要さ。▽ウエイト。・ウエートを置く [句] 重くあつかう。  (三国)

 

まず、用例がありません。「ウエートを置く」は、それ自体が項目として用例を必要とするものですから、「ウエート」の用例とは見なせません。

①の用法で、「重量」は「ウエート」で置き換えられるかどうか。

  この荷物の重量は?

という時、

  この荷物のウエートは?

と、ふつう言うかどうかということです。

 

 明鏡 ①重量。特に、体重。

 

明鏡は「特に、体重」としています。これだけでも三国よりはいいと思いますが、

  私は毎日ウエートを量っています。

と言う人はあまりいないでしょう。

どういう場合の「体重」なのか、新明解がはっきり規定しています。現代例解には用例がついています。

 

 新明解 ①〔ボクシング・レスリングなどの選手の階級を決める〕体重。

 現代例解 ①重量。特に体重。「ウエートがオーバーする」

 

ただし、現代例解の例は、どうして「オーバー」なのかわかりません。その基準は何なのか。

新明解の語釈と、現代例解の用例を合わせると、よりよくなります。

 

三国に戻って、①の「重さ」と、②の「重み」の違いはなにか。「重さ」は「重量」の言い換えで、「重み」は「重要さ」の言い換えだということでしょうか。

 

  重さ ①重い<こと/程度>。「責任の-」②ものを、台ばかりにのせてはかる数値。目方。重量。〔物理学では、物体に加わる重力の大きさ。無重力状態では、重さはゼロになる〕→:質量

  重み ①重く感じる<こと/程度>。「雪の-」②どっしりとしておちつきのあること。「-のある態度(⇔軽み)③たいせつな価値。「-のある発言・歴史の-」

 

 「ウエート」の①は「重さ」の②、「ウエート」の②は「重み」の③ということでしょうか。
 でも、「責任の重さ」は「重要さ・大切さ」でもあるでしょう。

やはり、それぞれにきちんと用例をつけておけば、語釈の不十分さを補って、利用者にわかりやすいものになるのでしょう。

 

つぎに、[句] としてとりあげられている「ウエートを置く」ですが、単に「重くあつかう」でいいのでしょうか。これには、「ウエート」以上に用例が必要です。「置く」に対して「どこに/何に」を表す名詞を示さないと、「重く扱う」ことの意味合いがわかりません。

 

  新明解 ②重点。「…に-を置く〔=重要なものとして扱う〕/-を掛ける/-は低い(小さい)」

  現代例解 ②重要度。重点「<置く>少子化対策にウエートを置く」「<占める>ウエートを占める」 

 

新明解は「…に」という形で「名詞+に」が来ることを示しているのですが、具体的な名詞がないと、どうも明解にわかった気になれません。

現代例解は、「置く」の例には「~に」の名詞を示していてわかりやすいのですが、もう一つの「占める」の例はどうも中途半端です。これをもっといい形の用例にしてくれたらよかったのですが。

他の辞書の「ウエートを置く」の例を並べます。

 

  明鏡「英語に-を置いて勉強する」  岩波「一方の立場に-をかけて分析する」

  新選「内申書に-をおく」 学研「健康に-をおく」

  三省堂現代「問題のどこに-をおくか」  集英社「面接にウエートを置く」

  例解新「健康保持にウエートをおく」

 

これらの用例を眺めていると、つくづく用例の重要さということを感じます。

「ウエートを置く」という表現が、どのようなものごとに対して使われるのか、そしてその意味合いは単に「重くあつかう」というだけでは表せないような、いくつかの選択肢の中から一つを選び、他と比べてそれを特に「重くあつかう」のだ、ということがわかってきます。

これらの辞書も、一つだけの用例ではなく、複数の例をあげたほうがよりよい辞書になるでしょう。辞書全体の大きさをどう考えるか、という問題が立ちふさがるのですが。

用例が一つもない三国は、この項目に関しては、これらの辞書に劣ると言わざるをえません。