う(得)
三省堂国語辞典の項目です。
う [得] (他下二)〔文〕⇒え(得)る。
〔文〕というのは、「文章語」ということです。「この辞書のきまり」によれば、
〔文〕文章語。文章などでよく使われ、話しことばではあまり使われないことばです。
というのですが、辞書本文の項目では、
文章語 現代語のうち、おもに書きことばで使う、(やや)かたいことば。例、「去来〔=行ったり来たり〕する」「されたい〔=してほしい〕」。
と例をあげて説明しています。
後者でははっきり「現代語」と言っていますが、「う」は現代語でしょうか。
「える」を見よ、とあるので(「⇒」は、「見よ」だと「略語表」にあります)、そちらを見ると(用例は一部略します)、
得る ①自分のものにする。手に入れる。「知識を-」②してもらう。受ける。「許可を-」③とげる 。「目的を-」④(以下略)
となっていて、「う」がどの用法に当たるのかわかりません。全部でしょうか。でも、「知識/許可/目的を得(う)」と書く人がいるでしょうか。いかに「文章語」とは言え。「去来する」とはずいぶん違います。
「う」から「える」へ来たわけですが、「える」には「う」のことは書いてありません。「う」に関係しそうなのは、
⑦〔動詞のあとにつく。ふつう、「うる」を使う〕(a) できる。「問題を知り-立場」(b) 可能性がある。「だれもが事故の加害者となり-」
というところでしょうが、それなら上の「う」の項は、少なくとも「⇒え(得)る⑦」とすべきでしょう。
「得る」の項目の最後に、「⇒:得(ウ)る」とあるので、「うる」を見ると、
うる (他下二)〔活用は「え・え・うる・うる・うれ・えよ」〕①「える」のかたい言い方。「-ところが大きい」②〔動詞のあとについて〕aできる。「考え-かぎりのくふう・貢献しうれば幸いだ」b可能性がある。「将来起こり-問題」
ここでも、「う」の形は出てきません。「え・え・うる・うる」のところが「え・え・う・うる」だと文語の活用ですね。
この活用の形は、この辞典の付録の「活用表」(p.1702)の口語の「得る」、文語の「得ウ」のどちらとも違う、折衷的なものです。
口語 得る え え える える えれ えろ/えよ
文語 得(ウ) え え う うる うれ えよ
新明解は「う」を次のように説明しています。
新明解 う [得] (他下二)「得エる」の文語形。
これはこれでいいわけですが、「う」の形は現代語として使われず、「うる」の形が生き残っているわけです。
次の説明は、この辺の事情をうまく書いていて、わかりやすいと言えます。
集英社 うる 「得エる」の文語形。「名声を-」「有り-ことだ」▽本来は下二段活用の動詞「う」の連体形だが、現在では終止形としても用いる。
そこを、新明解は次のように書いています。
新明解 うる[得る] ①「える」の新しい文語形。「-所が大きい」
しかし、「新しい文語形」というのは、ちょっととまどいます。集英社の説明のほうがわかりやすいでしょう。
初めに戻って、三国の「う」の項目は考え直す必要があります。