ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

おとな

ひさしぶりに書きます。

「おとな」とはどういう人か。まずは三省堂国語辞典から。

 

  おとな  一人前に大きくなった人。成人。   三省堂国語辞典

 

「一人前」がキーワードのようです。では、一人前とは。

 

  一人前  (りっぱな)ひとりのおとな。     

 

なんですか、これは。床に叩きつけたくなりますね。
念のため、「成人」を見てみます。

 

  成人 1おとな。「-教育」2成年になった人。  
  
ちょっとヤケになって「成年」を見ます。

 

  成年 人の、知識・からだがじゅうぶんに発達したとされる年齢。〔民法では満二十歳〕「-者」 (⇔未成年)         三国

 

なんでこの説明を「おとな」あるいは「一人前」あるいは「成人」の項に書かないんでしょうねえ。

    おとな 知識・からだがじゅうぶんに発達したとされる人。成人。

    一人前 人が、知識・からだがじゅうぶんに発達したとされる状態。

例えばこう書かないのはなぜなのか。より基本的な語にきちんとした説明をすべきでしょう。もちろん、「知識・からだがじゅうぶんに発達した」とはどういうことかが次に問題になるにしても。

明鏡も似たようなものです。

 

  おとな 成人した人。一人前に成長した人。  

  一人前 おとなとしての資格や能力をそなえていること。

     成人 成年に達すること。一人前のおとなになること。また、その人。          

  成年 物の考え方やからだが十分に発達し、一人前の社会人としての能力が備わるものと認められる年齢。〔民法では満二十歳に達することを指す〕     明鏡国語辞典

 

「資格や能力」と言っていますが、「おとなとしての」とあるので、結局、同語反復です。
「社会的な活動をするのに十分な(資格や能力)」とでもすればまだいいでしょう。

結局、三国も明鏡も「成年」の項にだけしっかりした説明があるのは、元に法律があるからでしょう。


新明解はどうかというと、

  おとな 一人前に成人した人。〔自分の置かれている立場の自覚や自活能力を持ち、社会の裏表も少しずつ分かりかけて来た意味で言う〕

    一人前 子供が成長し、社会人としての権利・義務を持つ段階に達した状態。

    成人 〔法律上の権利・義務などの観点から見て〕社会の一員とされるおとな(となること)。              新明解国語辞典

 

「立場の自覚・自活能力・社会の裏表・社会の一員・社会人としての/法律上の権利・義務」など、色々な観点から説明しようとしています。こういうことばは新明解ががんばります。

 他の辞書を少し。
 
  社会的に一人前に成長した人。成人。   学研現代
  社会的に一人前に成長した人。成人。   集英社
  一人前に成長した人。また、成人。    旺文社
  一人まえの人。成人。                        新選
  成長した一人前の男女。         現代例解

 

三国レベルが一般的だとわかります。

しかし、どの辞書も「おとな」の説明に「一人前」という表現を使うのはなぜなのでしょうか。「一人前」とはつまり(単独で使えば)「大人として一人前」の意味でしかないと思うのですが。

辞書についてよく言われる「親亀・子亀」の関係でしょうか。(現代例解だけが「男女」としているのは面白いですね。)