ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

インスタント・即席

いつものことですが、三省堂国語辞典の語釈がよくわかりません。

 

  インスタント  即席。「-食品・-コーヒー・-ラーメン・-な処置」  三省堂国語辞典

 

まあ、これはこれでいいかな、と思います。「インスタント」と「即席」がぴったり同じかどうかはひとまずおくとして。

外来語の意味は、対応する和語・漢語で置き換えて、そちらを見てください、というやり方です。不十分だとは思いますが、辞典の使用者にはわかりやすいやり方です。

問題は次です。

 

   即席 1その場(で作ること)。「-(の)料理・-ラーメン〔=インスタントラーメン〕
      2 大急ぎで、まにあわせにすること。  三国

 

「その場」という語釈があるのでしょうか。その後のカッコの中はなくてもいいはずのものですから、「その場」だけで「即席」の語釈になるわけです。

「当地」のようなことばなら、「その場(所)」と言えないこともないでしょうが、「即席」は違うでしょう。

「その場で作ること」としても、意味がよくわかりません。「地産地消」の「地産」はそのような意味でしょうか。

「その」が何を指すのかわかりません。「即席ラーメン」の場合は、(それを食べる)食卓が「その場」にあたる、ということでしょうか。

インスタントラーメン、私は台所で作りますけどねえ。麺をいちおうお湯で少しは煮ないといけないし。(お湯をかけるだけのものも、確かにありますが、それだけではありません。)

まあ、「即席」の「席」はそういう意味合いなのかもしれませんが、「即席」でも「インスタント」でも、その中心的な意味合いは違うところにあるんじゃないでしょうか。

 

  インスタント  かんたんに、すぐできること。「-ラーメン・-コーヒー」

          [類]即席            三省堂現代

         手間がかからないこと。手軽であること。即席。「━コーヒー・

          ━ラーメン」      明鏡

 

「インスタント」というのは、こういうことを言うんじゃないか。でも、もう一言ほしいところです。

 

  (造語)〔instant=即席の〕ちょっと手を加えるだけで、すぐ食べられる(使える)。

    [ 語例 ]-食品 ・ -コーヒー ・ -ラーメン   新明解

 

食品の例が多いので、「ちょっと手を加えるだけで、すぐ食べられる」というのはいい説明だと思います。「その場で」じゃなくて。

でも、「ちょっと手を加えるだけで、すぐ使える」というのは何だかわかりません。明鏡の言い方を借りて、「手間がかからず、手軽に使える」ぐらいにして、例として、「インスタントカメラ」を出すのはどうでしょうか。

三国に戻ると、「インスタントカメラ」は「その場で」とは言えませんよね。2の「大急ぎで、まにあわせにすること」でもないし。そもそも、2に用例がないのもよくないですね。「即席のスピーチ」あたりでしょうか。

とにかく、「即席(インスタント)」を「その場」でいいと思った執筆者・編集者は、反省の必要があると思います。