また三国の、なんだかわからない語釈を。
追い落とす 1追いかけて行って、下へおとす。2城の中の軍勢を追いはらって、城をうばい取る。3あとから行って、他人の地位などをうばい取る。[名]追い落とし。 三省堂国語辞典
まず、1で「下へおとす」と言われても、どういう状況なのかはっきりしません。「追いかけて行って」、とつぜん、「下へ」って、何の、どこの下なのか。そもそも「何を/だれを」落とすのか。
悪魔がとりついた豚を、がけの下へ追い落とす
というような状況でしょうか。もうちょっとわかるように書いてほしいと思います。まず、例をつけるとわかりやすくなります。三国の書き方は、とにかく字数を切りつめなくては、という気持ちだけがよく伝わります。
2はわかります。説明が具体的でわかりやすく書かれています。
3の、「あとから行って」というのがまるでわかりません。「他人の地位をうばい取る」自体はよくわかるのですが、その際に「あとから行く」というのはどういうことか。
嫌なやつの赴任先へ「あとから行って」その「地位をうばい取る」のでしょうか。
三省堂現代も同じ用法に同じ語釈をつけています。
あとから行って他人の地位をうばいとる。「出世のために先輩を-」 三省堂現代
ただ、用例があるので、どういうことかわかります。「出世のために先輩の地位をうばいとる」のですね。
「あとから行って」というのは、「先輩」だから、ということなのでしょう。しかし、ここで「行く」とはどういう意味なのか。「入社する」ということでしょうか。
他の辞書を見てみましょう。
追い払う。失脚させる。 集英社
これはまあ、なんとも。次の辞書へ。
上位の人に勝って、その地位をうばいとる。[用例]先輩を追い落としてリーダーになる。 例解新
上位の者に勝って、その地位から追いやる。 「先輩を-・して今の地位を得た人」 大辞林三版
「上位に勝つ」ということ。用例もはっきりしています。
追い払う。特に、下の地位の者が、上の地位の者をその地位から追い払う。「会長の座から追い落とす」 現代例解
〔下の地位から上がっていった者が〕先任者の地位を奪う。 新明解
下位にあったものが勢力を増してきて、上位のものをその地位から追いやる。「首位の座から―・される」 大辞泉
「下の地位から上がっていく」という新明解の説明がわかりやすいですね。大辞泉も具体的です。
三国の「あとから行って」というのはこれを言いたかったのでしょう。
何にせよ、自分だけがわかるような語釈はやめてほしいものです。
またいつものことをくり返しますが、結局、「あとから行って」というのは、「追い落とす」の意味用法を知っている人ならよくわかる、という語釈になってしまっているのですね。