いやなことばですが、「おいぼれ」です。
年をとって心やからだのはたらきがにぶく<なること/なった人>。〔老人が自分を卑下して使うこともある〕[動]老い耄れる(自下一)。 三省堂国語辞典
三国の記述によれば、例えば中年の夫婦が、
「うちの親父もずいぶん頭が鈍くなってきたなあ。」
「残念だけど、おじいちゃんも老いぼれになっちゃったんだね。」
と言ってもいいことになります。
「年をとって心やからだのはたらきがにぶくなること」は、かなり客観的な事実なので、そう判断し、表現することは、失礼ではあってもそれほど非難されるべきことではないでしょう。
しかし、上の「老いぼれ」の使い方は、どう考えても適切ではありません。
役に立たない老人。〔侮蔑(ブベツ)を含意して用いられる〕[運用]老人が自分を謙遜(ケンソン)して言うこともある。 新明解
おいぼれること。また、その人。老人が自らを卑下していう語。また、老人をあざけっていう語。「━ながら一肌脱ぎましょう」 [明鏡国語辞典 第二版]
「おいぼれ」は、「侮蔑(ブベツ)を含意して用いられ」「老人をあざけっていう語」なのです。三国の編者がそのことを知らないとは思えません。
同じ三省堂から出ている、三国よりも小さい、薄い辞書でも次のような注釈がついています。
*侮蔑的に、また自らを卑下するときに使う。 デイリーコンサイス
小学館から出ている「ポケットプログレッシブ」にも、同様の注記があります。(同書は、小さな字で、小さな版型に三国などと同等の情報を詰め込もうとしてがんばっているところがほほえましい辞書です。)
なぜ三国はこのような重要な注記をつけることをサボっているのか。よく言われる「紙幅の制限」などではないでしょう。編集者の差別に対する感度の低さが表れているのでしょう。