ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

一方的

どの辞書も今ひとつという例。

 

  形動 一方だけにかたよっているさま。また、一方の都合だけで行うさま。「━な試合で終わる」「━に断定する」  明鏡

  -な-に 1一方だけに かたよる様子だ。「-な勝利」2相手の言い分を聞かず、自分の都合だけで決める様子だ。「-通告」  新明解

     (考えなどが)かたよっているようす。「-な解釈」2自分につごうがいいようにしか考えないようす。「-なおしつけ」   三国

 

それぞれの2つ目の用法は別として、1のほうの語釈です。(明鏡の書き方はよくないと思います。ある用法の用例はすぐ後につけたほうがいいでしょう。)

「一方だけにかたよる」とはどういうことでしょうか。「試合がかたよる」とは?

 

  かたよる ある基準から外れて一方に寄る。また、一方に寄って均衡や公平を失う。偏する。  明鏡


「勝利がかたよる」?「勝利」は常にどちらか一方でしかなく、「かたよる」も何もないでしょう。

三国には「一方的な試合・勝利」に当てはまる語釈はありません。

 

  二つのものが関係する場合に、たがいにはたらきかけ合うことがなく、一方から一方へと、はたらきかけの方向がきまってしまうようす。[用例]一方的に話す。一方的な試合。    例解新

 

これも何だかわかりません。「はたらきかけの方向がきまってしまう」というのは、「一方的に話す」の例ではまだなんとなくわかりますが、「一方的な試合」で「働きかけ」とは何なのか。(他の多くの辞書のように「かたよる」を使わないで説明しようという努力は買いますが。)

 

  一方にだけかたよっているようす。「大差をつけた-な勝利」  三省堂現代新

 

「勝利」がかたよっているというより、「得点」がかたよっているのでしょう。

 

  勢いなどが、一方にかたよっている様子。「決勝戦はA校が~な勝利をおさめた」 講談社類語 

 

「勢いがかたよっている」。多少は、なんとなく、わかるような。

 

他の辞書も、私が見たかぎりでは「かたよる」を使った語釈と例ばかりでした。執筆者・編集者のみなさんは、このような語釈で本当に満足しているのでしょうか。

繰り返し書いていることですが、このような語釈でいいと思ってしまう理由は、解説しようとしている語の意味を「すでに知っている」ため、語釈が不十分でも、語の意味から逆に語釈が表そうとしていることがわかってしまう、ということなのだろうと思います。

ですから、その語釈と例によって、その語の意味を「新しく知ろうとする」人にとってはなんだかわからない語釈になりがちなのです。

 

さて、偉そうなことを書いてしまったので、「試合・勝利」に関する「一方的」に私なりの語釈を考えなければなりません。

 

   一方だけが強く、優劣の差が(あまりにも)はっきりしている

 

とするのはどうでしょうか。これでカバーできない、似たような他の用例があれば、また修正すればいいでしょう。