ワンポイント・ワンセットなど
「ワン・ツー・スリー」などを国語辞典がどう扱っているかを見てみようと思ったのですが、「ワン」の複合語で原語の表記が違うことに気づき、そちらを先に書くことにしました。
英語か和製語とするかの違いです。(現代例解は「洋語」という独自の表記をしています。凡例によれば、「外国語に擬して日本で作られた語には、 洋語 と示し」とあります。つまり、「洋語」は「和製」と同じと考えていいものです。)
表の形にして示します。空欄はその項目がなかったことを示します。
ワンポイント(シャツの) ワンセット(一組) ワンタッチ ワンクッション
集英社 和製 和製 和製 和製
学研現 英語 和製 和製 和製
旺文社 英語 和製 和製
現代例 英語 洋語 洋語
三国 英語 英語 英語 和製
新明解 英語 英語 和製
明鏡 英語 英語 和製
岩波 英語 英語
三現 英語 英語 和製 英語
新選 英語 英語 英語
「(シャツ・ソックスなどの)ワンポイント」は、集英社のみが「和製」としています。他はみな英語だとします。
私の持っている和英辞典『ルミナス和英辞典』2001 研究社(ちょっと古いですが)には、
ワンポイント (球技などの一得点)one point;(衣服などの) embroidered [printed]design in one spot (on...).
とあります。つまり、この和英辞典によれば、英語では one point とは言わない、ということです。他の和英・英和辞書を調べても同じでしょうか。
集英社以外の辞書は「英語」としているのですが、それは、上の引用にもあるように、「一得点」の場合は one point と言えるので、そういう英語がある、と考え、他の用法との違いを無視してしまっているのではないか、と思われます。
「ワンセット」は項目として立てていない辞書が多いのですが、上の4冊では2対2に別れました。また『ルミナス』を見てみると、
ワンセット (同種のものの一組) one set;(異種のものの組み合わせからなる一そろい) one suite;(球技の) one set.
とあります。
いやー、悩ましいですね。この「同種」「異種」というのは、具体的にはどういうものを指しているのでしょうか。「スプーンとフォーク」は「同種」なのか「異種」なのか。イヤリングやカフスボタンは二つで「ワンセット」というのでしょうか。これは「同種」ですね。
三国と三省堂現代新が英語とするのは、この「同種のものの一組」を one set というからなのか。しかし、「異種」のものを日本語では「ワンセット」と言い、英語では one suite と言うとしたら、やはり全体を「英語」とするのはよくないでしょう。
これはちょっと難しいですね。
「ワンタッチ」は和製5票、英語4票です。『ルミナス和英辞典』には、
このドアはワンタッチで開くThe door opens at the touch of a button.
という例が載せられています。このような場合は「one touch」とは言わない、ということですね。
ただし、「ワンタッチダイヤル one-touch dial 」という例もあげています。
ものを表す名詞なら、英語でそう呼ぶのか、というだけの問題ですが、三国の例「ワンタッチで動く機械」のような場合に、英語でもそう言うか、あるいは、それは日本語独自の用法で英語ではそう言わないのか、が問題になります。
上のような場合、単純に「英語」とするのもよくないし、「和製」とするのもどうか、ということになります。
「ワンタッチ」には他の用法、特にスポーツでの用法があります。三国はバレーボールとサッカーでの「ワンタッチ」の意味を解説していますが、それらは英語では何というのか。英語の「スポーツ用語辞典」のようなものを見ればわかるでしょうか。
複数の用法がある語は、それぞれに原語を示さなければならないので大変です。
なお、三国と新明解は英語としていますが、同じ出版社の三省堂現代新は和製としています。編集部の中で意見が分かれているようです。
「ワンクッション(を置く)」は和製が多勢です。『ルミナス』によれば、英語では言えないようです。
こちらは三省堂現代新が英語にしていて、三国・新明解の和製と対立しています。お互い、相談したりしないのでしょうか。(飯間浩明は両方の編集者になっていますね。)