ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

駅弁

軽い話です。


  駅弁  駅で売る弁当。   三省堂国語辞典三省堂現代も同じ)

  駅弁  駅で売っている弁当。  例解新(新選も同じ)

 

ずいぶんかんたんですが、これでいいでしょうか。

たとえば、毎朝、駅の売店で通勤客に売る弁当は「駅弁」か。コンビニで売っているのと同じような弁当で。

私の語感では、違います。
「駅弁」というのは、もっと特別なもので、その地方、その駅の文化(?)を背負っているものです。(ちょっと大げさですが)

 

  駅弁  鉄道の駅で、業者が乗客に売る弁当。  新明解

 

「乗客に売る」のは、まあ、そうなんですが、駅の中なら皆「乗客」ですよね。駅員も買うかもしれないけど。

このあと、用例に「駅弁大学」があり、ちょっと長い説明があります。「~地方の新制大学の俗称」だそうです。いかにも新明解らしい、皮肉な書き方です。編者の偏った社会観が表れています。

 

  駅弁  「駅売り弁当」の略。鉄道の駅などで、乗客のために売る弁当。  岩波

 

「駅など」の「など」とはどこでしょう。「など」は便利なことばですが、情報量はあまりありません。
           
  駅弁  鉄道の駅や列車内で販売する弁当。汽車弁。▽「駅売り弁当」の略。明治十八年、宇都宮駅で握り飯弁当が売られたのが始まりという。  明鏡

 

「列車内」でも売るんですよね。駅弁の歴史は初めて知りました。現代例解にも同じ歴史情報があります。

 

  駅弁  (「駅売り弁当」の略)鉄道の駅の構内や車内で売っている弁当。◇販売は明治十年代からという。最初の販売駅は、一八八五(明治十八)年の宇都宮、一八七七(同十)年の大阪梅田、神戸などの諸説がある。  旺文社

 

旺文社はこういう物の歴史情報をよく載せています。でも、国語辞典で「諸説」ある、まで言うとは。さすが。

 

  駅弁  駅構内などで旅客に売られる弁当。  集英社

 

ふむ。「乗客」と「旅客」では印象が違いますね。後者は「旅行」をする人ですね。通勤客じゃない。

 

ということで、私の期待するような説明はありませんでした。

百科事典にはかなり長い解説をしているものがあります。「日本大百科全書(ニッポニカ)」には、

 

  かつての駅弁は郷土色が豊かで、その地方独特の産物を入れてあったので、見るだけでも楽しいものもあった。いまはそれが薄くなってきたが、駅弁の種類は多くなっている。

 

とあり、そこが「駅弁」なんだよなあ、と私は思うのです。

「マイペディア」という一冊本の百科事典には、

 

  基本になるのは幕の内弁当で米飯に数種の副菜を添えるが,土地の産物などを加味した特殊弁当も多く売られている。いかめし(森),かにめし(長万部),釜めし(横川),シューマイ弁当(横浜),うなぎめし(浜松),牛肉弁当(松阪),かきめし弁当(広島),かにずし(米子),たいの姿ずし(三角)など。

 

と、おいしそうな各地の「特殊弁当」の名前が並べられています。

国語辞典にあまり多くを期待するのは無理な話ですが、例えば、次の程度には書いてほしいなあ、というのが私の気持ちです。(以上の国語辞典・百科事典の記述の切り張りです。)

 

  駅弁  駅構内や車内で旅客に売る弁当。その地方独特の産物などにより人気がある。「駅弁を食べるのも旅の楽しみの一つだ」