ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

負い目

三省堂国語辞典のダメな語釈。

 

  負い目  1〔気持ちの上での〕重荷。負担。「-を抱く」2〔文〕借り。負債。   三国

 

これはまったくダメですね。「重荷・負担」というだけでは、例えば、「新しい仕事がめんどうな仕事で重荷を感じる」という場合にも当てはまってしまいます。「近所づきあい」も「気持ちの上での重荷」になりうるでしょう。もちろん、それらを「負い目」とは言いません。(「近所づきあいに重荷を感じる」:「近所づきあいに負い目を感じる」?)

「負い目を抱く」という用例をあげても、それが、「人が人に対して抱く」のだということがわからなければ、用例の意味がないでしょう。

 

  〔もと、負債の意〕世話になった人などに対し、いつか報いなければいけないという思い。〔文脈により、引け目の意にも用いられる〕「-を持つ(いだく)」  新明解

 

「いつか報いなければいけないという思い」というより、「報いるべきなのにそれができない、という思い」じゃないかと思いますが、どうでしょうか。それがまた「引け目」に通じるのじゃないでしょうか。

その点はともかく、この語釈は「負い目」を感じる相手と、その理由を説明しようとしています。

三国の語釈にはこのような情報がまったくありません。

 

  相手に物質的または精神的な借りがあることから感じる心の負担。▽もと、負債の意。  明鏡

 

「心の負担」が何に由来するのかということ。

 

  返さなければならない借金。負債。また、相手に対して責任を果たしていないという、気持の上での負担。「-を感ずる」  岩波

 

「責任を果たしていない」というところがちょっとわかりにくいかな、と。

 

  人から借りている金銭や物品、また、他人の思惑や迷惑を考えて、負担に思ったり、すまないと思ったりする気持ち。「一生の負い目となる」「負い目を感じる」「負い目を抱く」  現代例解

 

語釈が詳しく、例が多くていいのですが、その負担の原因も例の中で示されていればもっといいですね。

他の辞書もだいたい同じような書き方です。

 

  援助や恩を受けた人に対してもつ、頭の上がらない思い。「-がある・-をもつ」[類]引け目   三省堂現代新

  金銭を借りたり恩恵をうけたり損害を与えたりして、そのことを負担に思う気持ち。「-を抱く」[類語]ひけめ。  学研現代新

  恩を受けたり、迷惑をかけたりした人に対して感じる心の負担。「生涯の-となる」   旺文社
 

何で三国だけダメなのかと思っていたら、頼りない辞書が他にもありました。

 

  責任をはたしていない感じ。ひけめ。「-を感じる」  新選

 

これだけではなんだかわかりませんね。自分自身で感じるだけでなく、「人に対して」感じるのだということが必要です。

 

  金銭的または精神的な負担。引け目。「-を感じる」「彼に-がある」  集英社

 

これもわかりません。「彼に」の例は、「彼に対して」だという意味がわかっていればいいのですが、わかっていないと、「彼」が「負担」を持っているような意味にもとられかねません。

 

いつものことですが、辞書の執筆者・編集者は、その語を辞書でひく使用者は、その語の意味・使い方がわからない人たちなんだ、ということを忘れないようにしてほしいと思います。

とにかく、三国は書き換える必要があります。