固有名詞:近代文学
『三省堂現代新国語辞典第六版』の固有名詞の項目をひいて、感想を書いています。
さて、日本の近代文学関係の固有名詞です。数が多いので項目を列挙することはしません。
明治の初めから戦後まで、文学史でおなじみの作家・作品名が項目としてとりあげられています。あれこれ引いていると、意外な人がいたり、いると思って引いたらいなかったり、とのんびり楽しめました。
安部公房の短編小説「赤い繭」が項目としてあることを、前々回に述べました。しかし、代表作である「壁」や「砂の女」はありません。国語教科書に載せられている短編のほうを、高校生に向けた辞書としては重視せざるを得ないわけです。しかし、国語辞典の項目として、それでいいのかどうか。
「文学関係」とは言えない丸山真男も、定番教材の評論の作者として、項目になっています。著書の「日本の思想」もあります。
作家名と代表作品名がそれぞれのっていることが多いのですが、大江健三郎の作品はなぜかないようです。三島由紀夫の「金閣寺」のように、一般によく知られているものがないからでしょうか。あるいは、高校生には勧めにくいような小説だからでしょうか。(「飼育」や「性的人間」など。)
逆に、作品名があって、作者のほうは項目になっていない場合があります。
評論「紀貫之」が項目としてありますが、作者の大岡信は項目になっていません。大岡信は「言葉の力」という評論が教科書に載せられているようですが、なぜ「紀貫之」が特にとりあげられているのでしょうか。
北杜夫は人名としてはありませんが、「楡家の人々」がなぜかあります。長編小説で、その一部が教科書に載っているとは考えにくいのですが。(昔読んで面白かったので、高校生に勧めるのは賛成です。もちろん「どくとるマンボウ航海記」も。)
国語辞典にどういう作家をどう紹介し、その代表作をどうとりあげるか、他の項目との釣り合いをどう考えるか、難しい問題だと思います。
ついでに、世界文学の項目にも触れておきます。
中国の李白・杜甫はもちろん、西洋のダンテ・ゲーテからシェークスピア、カフカ、カミュまで多くの人名・作品名が見つかりました。
ヘミングウェイはいましたが、スタインベックはいませんでした。
こちらも、国語辞典として、どういう作家のどういう作品を紹介するか、基準は何なのか、まじめに考えようとするとむずかしいだろうと思います。