ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

おう:おお

三省堂国語辞典は「おう」と「おお」が別々に項目としてあるのですね。

 

  おう [2] [応](感)〔古風〕承知することば。はい。「-と答えてやって来る」⇒:おう(感)    (おう[応]の[1]と[3]は、名詞と造語成分の用法です。)

 

  おう(感)1〔男〕ぞんざいに答えることば。そうか。わかった。「『ただいま帰りました』『-』」2〔俗・男〕ぞんざいに呼びかける声。おい。「-、そこのにいちゃん」3〔話〕⇒おお。4〔古風〕⇒応[2]。

 

  おお(感)〔話〕1おどろきをあらわす声。「-きみか・-、寒い」2思い出したときに出す声。「-、そうだ」3ひとりのかけ声に応じて、みんなが答える声。「『行くぞ』『-』」▽おー。⇒:おう(感)。  三国

 

初めの「おう」は漢字表記([応])があります。次の「おう」と「おお」の漢字はありません。なるほど。
 
ところが、新明解は「おう」の項に「「おお」とも書く。」とあり、同じものとしています。

 

  おう(感)〔「お」の長呼〕 1相手の言葉に積極的に応じて発する声。「-、ここに居るぞ!/-それはよかった」2 期待通りの結果が得られるなどして、感動して発する声。「-、我ながらうまくいった/得たりや-」3 外界からの刺激などに対して、驚きを感じて発する声。「-寒い/-こわ〔=怖い〕」[表記]「おお」とも書く。  新明解

 

明鏡は「おお」とし、「「おう」とも。」と書いています。漢字の「応」についても書いています。

 

  おお〔感〕1応答したり承諾したりするときに発する語。「━、いいとも」「━、合点だ」2驚いたり感動したりしたときに発する語。「━、びっくりした」「━、なんと美しい夕焼けだ」3急に思い出したり、思い立ったりしたときに発する語。「━、そうだ」「━、もう出かける時間だ」▽「おう」とも。特に1は「応」を当てることもある。  明鏡

 

明鏡は「お」も項目としています。なかなか細かいです。

 

  お〔感〕驚いたときや急に気づいたときに発する語。おっ。「━、ブレーキがきかない」「━、雪が降ってきた」「━、太郎じゃないか」  明鏡

 

さすがに、「おっ」という項目はありません。

 

さて、「おう」か「おお」か。発音は同じなのでしょう。「オー」という発音を「おう」と書くのは「現代仮名遣い」の約束事です。(それでも、承諾のときは「オゥ」という感じで、少し「ウ」の音になるでしょうか。)

もともと日本語に、ある発音のことばがあって、それに「応」という字を当てることにした(意味も考えて)のでしょうが、それはどういう発音だったのか。「オゥ」か「オォ(オオ)」のような発音でしょうか。仮に二つともあったとして、それが使い分けられていたかどうか。「応」という書き表し方と同時に「おう」「おお」というかなによる表記もあったのか。日本語史の研究で、こういう細かいことまで研究されているのでしょうか。かなり複雑で、難しい問題になるのでしょうね。

 

現代語として、どう考えたらいいか。

私の感覚では、「おう、寒い」より「おお、寒い」のほうがぴったりします。感動詞としての表記は、現代仮名遣いに縛られなくてもいいのじゃないかと思います。

「答えることば」「呼びかけることば」の、「おう」という表記に近い発音(オゥ)がなされる場合をどう考えるか。そこを重視すれば三国の分け方になるのでしょう。

それほど明確に分けられないと考えれば、明鏡の行き方です。私は明鏡派です。三国の例、「『行くぞ』『おお』」は「おう」でもあるのでは、と思います。