ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

あけましておめでとう

軽い話を。
新年のあいさつ「あけましておめでとう」が辞書の項目になっています。まずは明鏡。

 

  【明けましておめでとう】連語 新年が明けたことを祝う挨拶のことば。「━、今年もよろしく」▽口頭語だが、賀状などでも使う。  明鏡

 

三国はいろいろな情報を加えています。

 

  (感)新年を無事にむかえられたことをたがいに祝うあいさつ。松の内(一月七日ごろ)または小正月(一月十五日ごろまで)使える。「-ございます」〔俗に若者がメールなどで「あけおめ」と略し、「ことよろ」《ことしもよろしく》」といっしょに使う〕  三国

 

どうもこれは〔 〕の中のことがいちばん書きたかったんじゃないかと思いますが。

岩波は、「明けまして~」は項目になっていませんが、「明ける」の項に、

 

  明ける  2ある期間が過ぎて次の状態となる。「もうじき休暇が-」。特に、年が改まる。「-・けましておめでとうございます」「-・けて明治十年には」  岩波

 

「明けましておめでとうございます」が用例として出されています。「新年のあいさつ」というような説明はありません。「年が改まる」という意味の「明ける」の一つの用例以上の扱いではありません。

 

新明解では、項目としても、「明ける」の用例としても、とりあげられていません。まったく無視。

 

この四冊の国語辞典の違いは、それぞれの国語辞書編集の態度の違いの表れでしょう。それぞれの編集者が、自分の国語辞典をどのようなものと考えているか、利用者にどのような情報を提示しようとしているか、の差が出ていると言えます。

 

明鏡は、日本人の言語行動をそのまま記述しています。ごく当然のことを、ごく当然のように。

ただ、「新年が明けたことを祝うあいさつのことば。」という説明と、そのあとの用例は、使用者に対して何ら新らしい情報を与えていないでしょう。明鏡という国語辞典を見るくらいの人なら、それらのことは当然知っていることだからです。

でも、私はこれでいいと思います。これは、国語辞典としての一つのあり方です。

 

三国は、その当然のことにさらに情報を加えます。新年のあいさつとして使える期間を示し、さらに若者ことば「あけおめ」「ことよろ」を紹介します。いかにも三国らしい補足です。

 

岩波は、「年が改まる」という「明ける」の用法の例として、ほら、例の新年のあいさつはこの用法の例ですよ、と示しています。例として示すことで、何か新しい情報を加えているわけではありません。単に、一つの使い方、です。

 

新明解は、そんな、皆が知っている当たり前のことを書いても、辞書としての有益な情報提示にはならないだろう、と考えているかのようです。

 

私は、岩波・新明解よりも、明鏡・三国のとりあげ方を支持します。

さらに、明鏡の「-、ことしもよろしく」の例に加えて、「-ございます。本年もどうぞよろしくお願い致します」という例を加えたいと考えます。三国の若者ことばの情報もあっていいと思います。