ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

多い

「多い」という形容詞は、特徴的な用法(の制限)がある語なのですが、ほとんどの国語辞典にはそのことが書いてありません。

日本語教師にとっては、知っておくべき常識の一つです。)

 

例えば、

  まだ会場に残っている人は多い。

  この図書館は本が多い。

とは言えても、

  ?多い人がまだ会場に残っている。

  ?この図書館は多い本がある。

と言うと、かなり不自然です。

 

つまり、「多い」は述語用法では制限がありませんが、連体修飾(名詞修飾)の場合は、使いにくい場合があるのです。

 

では、どう言うかというと、

  大勢の人がまだ会場に残っている。

  多くの人がまだ会場に残っている。

  この図書館にはたくさんの本がある。

  この図書館には多くの本がある。

などと言えばいいわけです。

 

しかし、「多い+名詞」が常にダメなわけではありません。

  知人が多い人が会場に残っておしゃべりを続けている。

  会の運営について言いたいことが多い人が会場に残って~

  図書館で挿し絵が多い本を探した。

  これまでに借りた人が一番多い本はどれだろう。

など、名詞の前の「多い」自体が「述語」であるような形、つまり「節」(連体修飾節)になっていれば不自然でなくなります。

 

日本語学習者には、

  「多い」は名詞の前において「多い人」とは言えません。

  かわりに「多くの人」と言います。

というような説明をしています。「どうして?」と聞かれたら、「例外です」と言ってすませます。(ほんとに、どうしてなのかはわかりません。何か研究論文があるのでしょうか。)

 

国語辞典の中でこのことに触れているのは、私が見た中では現代例解だけでした。

 

  多い (略)▽「多い本がある」の形ではいえず、「多くの本がある」という。  現代例解

 

これだけですが、ああ、わかっている人がいるな、と思いました。

こういう情報も載せておいてほしいと思います。