前回は「多い」について、連体用法に制限のある形容詞であることを書きました。
では、対義語の「少ない」はどうでしょうか。
まだ会場に残っている人は少ない。
?少ない人がまだ会場に残っている。
この例の場合、やはり述語用法では問題なく、連体用法では不自然になります。
しかし、「少ない」には連体用法でも自然な例が多くあります。
少ない予算でうまくやりくりする。
少ないお金を上手に使って食べていく。
少ない材料からおいしい料理を作る。
これらの例やその他の例を見ると、「少ないもの」を「使う・利用する」などの意味合いの例が多いようです。
それに対して、単なる存在量を言う例の場合は、連体用法が不自然になってしまうようです。
財布の中のお金は少ない。
?少ないお金が財布の中にある。
「多い・少ない」がなぜ連体用法で使いにくいかという問題についての研究論文を探したところ、いくつかあるようですが、まだ読んでいません。
なかなか議論は複雑そうです。
とりあえず、そういう事実の指摘だけでも国語辞典に書いておいてほしいものだと思います。
前回の記事で、「多い」についてこの制限を述べているのは現代例解だけだと書きましたが、小学館日本語新を見忘れていました。現代例解よりも詳しく書いてありました。(同じ小学館の辞書です。)
◆数えられるものを表す名詞にかかって、その物の多いことをいう場合は、「多くの人が」「多くの部屋で」のように表現し、「多い人が」「多い部屋で」とはいわない。しかし、「文句の多い人が」「湿気の多い部屋で」のように、述語になりながら下の名詞にかかる表現をとることはできる。 小学館日本語新辞典(「多い」の項)
なお、「少ない」についてはどちらの辞書にも注記はありませんでした。