ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

同じ・違う

「同じだ」とはどういうことか。国語辞典がどう説明しているかを見てみます。
まずは岩波の第八版から。(例などは適宜省略します)

 

   同じ 1〔連体・ノダ〕これとそれとの間に区別ができない(区別するまでもない)。「-日の夜」「姉と弟の身長が-になった」「私見も君と-」    岩波

 

岩波は「これとそれ」が好きですね。(→「2016-03-16  あいだ」「2020-01-20   岩波八版:会話・あいだ・蹴る・営業」)

しかし、「同じ日の夜」の例で「これとそれ」は何を指すかと言うと、ちょっと難しいです。(「ある日の朝、または昼」と「その日の夜」、の「ある日」と「その日」が「これとそれ」、つまり「同じ日」ということでしょうか。こう考えるとかえってわかりにくいですね。)

 

さて、「同じ」とは「区別ができない」ことです。では、「区別」とは。

 

   区別 それとこれとの間に認める違い。また、それをこれと違うもの(種類)として扱うこと。

 

おや、ここでは「それとこれ」ですね。まあ、それは気にしないことにして、「区別」とは「違い」「違うものとして扱うこと」です。それができない場合が「同じ」です。

では、「違い」「違う」とは。

 

   違い 1違うこと。違っている度合い。相違。差。

   違う 1他のもの、または正常の状態と異なる。
  
「違い」とは「違うこと」で、「違う」とは「異なる」です。

 

   異なる あるものが他のものと同じでない。ちがう。  以上 岩波第八版

 

おやおや。「異なる」とは「同じでない」ことです。振り出しに戻ってしまいました。

これまでの説明をまとめると、

 

   同じ これとそれ(あるものと他のもの)とが同じでないものとして扱うことができない。

 

となります。これでは説明になっていません。

 


明鏡だともっと簡単です。

 

   同じ 〔形動〕そのものと少しも違いがないさま。同一。

   違い 比べる(二つの)ものの間に認められる差異。相違。隔たり。

   差異 二つ以上のものを比べたときの、違いやへだたり。    明鏡 第二版


「同じ」は「違いがない」。「違い」は「差異」。「差異」は「違い」です。

「相違」「隔たり」を見ても変わりません。

 

      相違 二つの物・事柄の間にちがいがあること。

   隔たり へだたること。また、その度合い。

   隔たる 2物事の間に差がある。懸け離れている。差異がある。

   差  へだたり。違い。           明鏡 第二版

 

袋小路に入ってしまい、出られません。

さて、どう説明すればいいのか。

 

新明解を見てみましょう。

 

   同じ 二つ(以上)のものについて、比較しようとする問題の点に関して少しの違いも認められず、別のものだととらえる必要(理由)が無いと判断される様子だ。

   違い 違うこと。

   違う その物には無い属性や特徴を、それと比較される他の物が持っていると認められる。

 

「同じ」を「違いが認められない」とすることは、岩波や明鏡と似ていますが、「違い・違う」を「同じ」を使わずに説明しています。

二つのものがあって、一つのものが「他のものにない属性や特徴」を持っている時、「違いがある」と言う、という説明です。なるほど。

「違いがある」ということは、他のものにない何かがある、ということですね。そういう点がなければ、「同じ」だと言える。

言われてみれば当たり前のような気がするのですが、これだけのことをきちんと書くのが案外難しい。

 

三国も見てみましょう。

 

   同じ 1形・性質・種類などが、ぴったりあうようす。  三国

 

「違いがない」の代わりに「ぴったりあう」と説明しています。なんとなくいいような気もしますが、では、「あう」とはどういうことか。

 

   合う 2〔二つ(以上)のものが〕同じ形や状態に<そろう/そろって、すきまがなくなる>。

 

うーん。やはり「同じ」が出てきてしまいました。残念。

「同じ・違う」に関しては、新明解の説明のしかたがよいと思います。