ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

殊勝・けなげ

明鏡国語辞典から。

 

  殊勝 けなげで感心なこと。「無償で引き受けるとは━な心がけだ」
  健気 心がけが殊勝なさま。特に、年少者や力の弱い者が、殊勝な心がけで努力するさま。「一家を支えて働く━な少年」

 

「殊勝」とは「健気で感心なこと」で、「健気」とは「心がけが殊勝なさま」。後者に「特に、年少者や力の弱い者が」とあるのはいいのですが、結局「殊勝・健気」の意味はわかりません。

 

三省堂国語辞典から。

 

  殊勝 感心。けなげ。「-な心がけ」
  健気 〔<年の行かない/弱い>者が〕困難にくじけず、りっぱに<事/人>に立ち向かうようす。     「-に働く」

 

「殊勝」のほうは、かんたんな語釈(?)と用例で、これでいいのかなあ、と思います。
「健気」のほうは詳しく説明しています。「殊勝」もこれと同じような意味を持っている、と考えていいのでしょう。

「殊勝」のところに出てきた、もう一つの「感心」はと言うと、

 

  感心 ほめたくなるほど、よくやっているようす。「-な子ども・-に泣かないわね」

 

で、例文に「子ども」「泣かない」などがあるので、「健気」と似たような意味合いをもつことがわかります。三国によれば、その辺が「殊勝」ということばの意味・用法であるようです。

 

新明解から。

 

  殊勝 〔年齢や経歴の割に〕りっぱなところが有り、ほめるに値する様子。「-〔=感心〕な心がけ/-気(ゲ)を出す〔=何か大変良い事のつもりで その事をする〕」

  健気 〔年少にもかかわらず〕困難な事に勇敢に立ち向かう様子。「年にも似ず-な子」

 

新明解は明鏡のような単純な言いかえ、そして説明の堂々めぐりを避けようと努力します。

それはいいのですが、「りっぱなところが有り、ほめるに値する」のと、「困難な事に勇敢に立ち向かう」ことの違いはわかりにくいでしょう。

「~勇敢に立ち向かう」のは「りっぱなところ」であり、「~ほめるに値する」と言える、のではないでしょうか。つまり、同じ事になってしまう。

それとも、「りっぱなところ」は「~勇敢に立ち向かう」以外のもっと広い性質を指す、ということでしょうか。

また、「殊勝」が「年齢や経歴の割に」で、「健気」が「年少にもかかわらず」なのは、前者が多少は年が上だ、という含みを感じさせます。
この二語の違いは、そのあたりにあるのでしょうか。

例えば、定年退職した公務員が、もう一度法律を勉強したい、と言って放送大学へ入学したと聞いて、友人が「殊勝な心がけだねえ」と言っていいかどうか。「健気だねえ」と言っていいかどうか。

私の語感では「殊勝」はいいけれども、「健気」は合わない、というところですが、どうでしょうか。