ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

基本的

新明解国語辞典から。

 

  基本的 その物事の存在を支える根幹にあって状況の変化などにかかわりなく、一貫しているととらえられる様子だ。「-な練習に重点を置いた合宿訓練/中央銀行の-な使命/財政改革の-な方針/与野党の見解が-に一致する 」  新明解

 

ちょっと大げさな、わかりにくい語釈です。「基本的な練習」に当てはまるかどうかちょっと疑問です。(「その物事にとって、いちばん元になる、まず初めに考えるべき、すべきである(こと)」ぐらいでは足りないでしょうか。)

そこはおくとして、用例も多く、「基本的には」これでいいと思うのですが、三省堂国語辞典は次のように説明しています。

 

   1基本となるようす。「-なルール」

   2〔「-に」の形で〕原則として。だいたい。「-に土日は休みです・-にからいものは苦手です」  三国

 

1のほうは説明がかんたんすぎますが、この2の用法をとりあげたところがいいと思います。

「基本的にからいものは苦手です」という使い方に、新明解の「その物事の存在を支える根幹にあって」というような説明は合わないでしょう。三国の「原則として。だいたい。」というあっさりした説明でいいでしょう。(こういう使い方を好むかどうかは別として。)

一方、「中央銀行の-な使命」という例では、新明解の説明が、三国の1よりしっかり書いていていいと思います。

 

明鏡国語辞典には、「基本的」という項目はありませんが、「基本」の項目に興味深い語法解説があります。

 

  基本 物事のよりどころとなる大もと。「経営の━を学ぶ」「演技の━を身につける」「━方針」 [語法] 近年「基本的に」に代えて、「基本、チェンジすることが大切だ」などと使われることがあるが、副詞的用法になじまない。    明鏡

 

「基本」を副詞的に使うのはよろしくない、という指摘です。

この指摘をするのはいいのですが、そもそも「基本的(に)」の意味用法の説明がまずあってしかるべきでしょう。つまり、その項目が。

 

同じことが三省堂現代新国語辞典にも見られます。

 

  基本(名)〔ものごとのよりどころとして〕いちばんもとになるもの。「-に忠実な選手・-給(=諸手当や残業料を除く給与)

    (副)←基本的に。「-七時に起きる・-賛成だが…」[ややくだけた言い方]   三省堂現代

 

「基本」に「副詞」としての用法があり、それは「基本的に」と同じである、というのですが、「基本的(に)」という項目はありません。

 

「基本」ということばがわかるなら、「基本的(に)」の意味もわかるはずだ、というなら、「~的」の形のことばは国語辞典に載せる必要がないはずです。しかし、多くの「~的」の形のことばが国語辞典に載せられています。必要なのです。

 

新しい用法をとりあげるのは、現在の国語辞典の「競争」として必要なことなのでしょうが、その前に、まず基本的な語・用法をしっかりと記述してほしいと思います。