ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

厚い

また新明解国語辞典から。

 

  厚い 比較の対象とする(一般に予測される)状態と比べ、表層と下底の間に幅が

  あり、その部分が何かによって満たされている(ととらえられる)様子だ。

     「月は-雲に隠れたままとうとう出て来なかった/-胸板に頭を預ける/
      -壁が立ちはだかる/層が-/-本」   新明解

 

「表層と下底」という語釈が「厚い壁」と合わないように思います。
「表層」はともかく、「下底」は「壁」には言えないでしょう。(「壁」の向こう側にも部屋があるのです。) 

 

    物の両面の間の幅が大きい。相当の厚みがある。  明鏡

 

これでどうでしょうか。「厚い」の説明に「厚み」を使うのはどうかと思いますが。

 

また、「その部分が何かによって満たされている」ことの必要性はどの程度あるのでしょうか。

薄い空箱を比べて、「こっちのほうが厚い」と言うこともあるでしょうし、段ボールを断面から見ると、中は案外スカスカです。でも、「厚い段ボール紙」と言う。

これ(ら)は、上の語釈では「(ととらえられる)」と見なされるのでしょうか。

 

こういう基本的な語を的確に説明するのは本当に難しいことだと思います。

新明解は、通り一遍の語釈では満足できないようで、いろいろ苦労していて面白いのですが、ときどき行きすぎ、勇み足があるように思います。(やめろとは言っていません。)