ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

秋風

新明解国語辞典第八版の項目を検討します。このブログで以前とりあげたものです。
(2016-08-18 秋風)

 

軽い話です。
「秋風」を国語辞典はどのように記述しているか。

 

   大辞林三省堂現代  秋に吹く風。

 

論外ですね。「春風」は「春に吹く風」でしょうか。

 

   広辞苑  秋になって吹く風。

 

これも同じ。「秋風」ということばに(あるいは、実際に吹かれてみて)何を感じるか、です。

さて、新明解。対抗馬として明鏡。

 

   新明解  秋に吹く、肌寒い風。  (第七版・八版)

   明鏡  秋に吹く(涼しい)風

 

さて、秋風は「肌寒い」風でしょうか、「涼しい」風でしょうか。

NINJAL-LWP for TWC という書きことばコーパスで、「秋風」の前に来る形容詞・形容動詞を見てみます。  

「秋風」596例中、形容詞31例、形容動詞13例。その中で多かったのは、

  さわやかな 13例   冷たい 7例   心地よい 7例   涼しい 6例

でした。ちなみに、「肌寒い」は1例、「寒い」も1例でした。

やはり、どちらかと言えば「好ましい」ものとして受け取られているようです。

新明解が「肌寒い」としたのは、執筆者・編集者がそう感じるということもあるでしょうが、語釈の後にある用例が、

 

   「-が吹く(立つ)〔=男女の間の愛情がさめる。何かの流行が下火になる〕」  新明解

 

なので、この表現のことが頭にあって、秋風のマイナス面を言っておきたいのではないか、というのが私の推測(「邪推」とも言う)です。

三国はどう書いているか。

 

   三国  秋にふく、さわやかなひやりとした感じの風。

 

これがいいと思いました。「さわやか」かつ「ひやりとした」で、男女の話にもつながります。

ただし、「さわやかなひやりとした」という形容は多少無理があるようにも思います。

 

  秋にふく、さわやかな(しかし、時として)ひやりとした感じの風。

 

とでもしたらどうかと思うのですが、やりすぎでしょうか。