ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

ウエスト・腰

新明解国語辞典第八版の項目を検討します。このブログで以前とりあげたものです。
(2017-08-06 ウエスト)

 

   ウエスト 胸と腰の間の一番細くくびれた所(の太さ)。〔狭義では、婦人服のその部分を指す〕

   ウエストニッパー 女性の下着の一種。腰まわりを締めつけて、スタイルをよく見せるためのもの。           新明解七版・八版 


「ウエスト」とは、「胸と腰の間の」「細くくびれた所」です。

しかし、「ウエストニッパー」は、「腰まわりを締めつけ」るもののようです。
「腰まわり」をしめつけてどうするのか。ウエスト、つまり「胸と腰の間」をしめつけないと。

 

   腰回り 腰の周囲(の寸法)。ヒップ。  新明解第七版・八版

 

「腰回り」は「ウエスト」でなく「ヒップ」ですよね。じゃ、なんで「[ウエスト]ニッパー」なんでしょうか。

三省堂国語辞典ではどうでしょうか。

 

   ウエスト(名)〔waist〕〔服〕①胸と腰の間の細くなっている部分(の寸法)。胴まわり。〔Wで示す〕②〔女性の衣服で〕「ウエスト①」の部分。「-ライン」  三国

 

三国でも、ウエストとは「胸と腰の間」です。「胴まわり」とも言っています。
そして、

 

   ・-ニッパー 女性の下着の一種。腰のまわりをしめつけて、すらりと見せる。(三国)

 

やはり、「胴まわり」ではなく、「腰のまわり」をしめるものを「ウエストニッパー」と言うそうです。
  
   腰まわり (服)ヒップ。  三国

 

で、「腰まわり」は「ヒップ」です。「ウエスト」ではありません。

これはどういうことでしょうか。

新選国語辞典で「ウエストニッパー」を引くと、

 

   女性用下着の一つ。ウエストの部分を締めて細く見せるためのもの。  新選

 

そうですよね。そうでなければ、筋が通りません。

では、新選の「ウエスト」とは。

 

   ウエスト 衣服の胴の部分。腰まわり。  新選

 

あれ? 「胴の部分」はいいのですが、「腰まわり」ですか? 三国では「胴回り」だったんですが。

やっぱり、「ウエストニッパー」は「腰まわり」を絞めるんでしょうか。

 

   腰まわり 腰のまわり。また、その寸法。ヒップ。  新選

 

あらあら。「ウエスト」の項では「腰まわり」と言っていたのに、「腰まわり」の項では「ヒップ」と言っています。新選も信用できません。

 

wikipedia で「ウエストニッパー」を見ると、

 

  ウエストニッパー(英語: Waist Nipper)とは、女性用ファウンデーションの一種。胸部下部よりウエストにかけてのラインを補正する役割を持ち、主に腹部を引き締めて体のラインを細く見せるもの。

 

やはり「腹部」で、「腰回り」ではありません。添えられている図からも明らかです。

 

さて、「腰」とはなんぞや。

 

   腰 胴体の下部で、上体と下肢をつなぐ部分。直立する・すわる・屈曲するなどの軸となる重要な部位。輪郭のくびれている部分をウエストと言い、骨盤の両側で大腿(ダイタイ)の上端に当たる部分をヒップと言う。  新明解第七版・八版

 

新明解の「腰」の項では、ウエスト・ヒップどちらも「腰」とします。それはそれで一つの解釈でしょうが、そうすると「ウエスト」の「胸と[腰]の間の細くなっている部分」と矛盾します。

「ウエストニッパー」では、「ウエスト」を「腰」と解釈し、「腰回りを締めつけて」としています。

また、「腰回り」の項では、「腰」を「ヒップ」の意味に当てています。

三国も、新明解と同様です。

執筆者・編集者はこの矛盾・食い違いに気付いていないのでしょうか。

 

前回の記事では「腰」についてもう少し詳しく述べています。興味のある方はどうぞ。

niwasaburoo.hatenablog.com