ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解第八版:「日本語形」

新明解国語辞典第八版の項目を検討します。

前に「エキジビションゲーム」をとりあげた時、(2020-12-20 エキシビションゲーム)

   「エキジビション」に関する問題は後に回して、

などと書きました。

その問題をとりあげます。

 

   エキジビション〔exhibitionの日本語形〕〔展覧会・展示会・模範試合など〕公開することを目的とした催し。エキシビション
    -ゲーム〔exhibition game〕公開競技。模範競技。  新明解第八版

 

初めてここを見た時、この「〔exhibitionの日本語形〕」の「日本語形」というのが何のことかわかりませんでした。

 語釈の最後に、「エキシビション」という発音のちがう形が書いてあります。

「エキ[シ]ビション」を見出し項目とする国語辞典もあります。三国、明鏡など。岩波は新明解と同じく、[ジ]です。

exhibition を英語の辞書で引くと、

 

   exhibition (略)(▼発音注意. ⇒EXHIBIT)   プログレッシブ英和中辞典(第4版)

 

などと発音の注意書きがあります。

おおよその発音をカタカナで書いてみると、

   exhibit イクジビット   exhibition イクシビション

ぐらいでしょうか。動詞と名詞で「ジ」と「シ」の違いがあるのですね。

それで、日本語で「外来語」として使われるようになった時、誤って「エキジビション」という形も(が?)使われた。それを新明解は「日本語形」と言っているのではないか、と考えました。

しかし、どのような場合に「日本語形」というのか、という説明は「凡例」に当たる「編集方針」には何も書いてありません。

 

「エキジビション」の他の、「日本語形」と書いてある外来語の項目を探すと、

 

   カーソル〔cursor(「走るもの」の意)の日本語形〕(略) 新明解第八版

 

がありました。

これも発音の問題でしょうか。しかし、「カーソル」以外にどうカタカナで書いたら、「日本語形」でなくなるのでしょうか。「カーサル」でも「カースル」でも「カーソル」でもない発音が cursor なんですね。まあ、「ソル」は「文字読み」だと言われてしまうのでしょうか。

同じような、カタカナで書けない発音の語、

 

   ナース〔nurse〕(略)   新明解第八版

 

これも、どう考えても「ナース」ではないのですが、「日本語形」とはされていません。

「日本語形」と判断するのはどういう場合なのでしょうか。

 

「エキジビション」の近くのページに、

 

   エクレア〔フeclairの日本語形〕(略)  新明解第八版

というのがありました。

これも無理してカタカナで書けば「エクレール」でしょうか。この「ル」としたところは、どう聞いても「ル」ではないのですが、「r」に近い音ではある(?)ので、そうしました。

どのみち、カタカナでは表せないので、どう書いても、カタカナをそのまま発音したら「日本語形」にならざるを得ないでしょう。

 

昔の版でこの「エクレア」の項を見てみたら、ちょっと驚きました。

 

   エクレア〔eclair〕(略)〔「エクレール」はフランス語形〕  新明解四版・五版

 

「フランス語形」とは何なのでしょうか? 日本語の外来語で!(もうメチャクチャです。)

上の、「無理してカタカナで書けば」ということを思っていた時は、まだこの「フランス語形」の所は見ていませんでした。ここを見て、ほんとに驚きました。(上の「ちょっと」というのは「すごく」という意味です。)

もちろん、「編集方針」には外来語の「形」についての説明は何もありません。「フランス語形」とはどういうことか、ぜひとも説明してほしいところですが。

 

また、次のような例もあります。

 

   カレーライス〔curry and riceの日本語形〕(略)  新明解第八版

 

こちらは、発音の問題ではなく、省略した形になっています。これを「日本語形」と呼ぶのは、まだわかるような気がします。

ただ、そういうことを「編集方針」に書いておくべきだと思います。

ちなみに、

 

   カレー〔curry〕(略)  新明解八版

 

これ、どう考えても「カレー」という発音じゃありませんね。「カリ(-)」ですね。

でも「日本語形」とはされていない。まったく、どういうことなのかわかりません。

 

(この「日本語形」の話、面白いのでもう少し調べてまた書きます。)