前回の記事を書いていた時に気になった用語です。
新明解は、語釈の中でよく「広義:狭義」という言い方をします。
広義 その言葉の意味のうち、指す範囲の広い方。
狭義 ある言葉の意味のうち、指す範囲の狭い方。 新明解第八版
わかりやすいのは次の例です。
科学 (略)〔広義では社会科学・人文科学を含み、狭義では自然科学を指す〕 新明解第八版
一般に、「科学」は「自然科学」「社会科学」「人文科学」の三つに分けられます。
その中で、「狭い意味での科学」は「自然科学」で、他の二つは「広い意味での科学」に含まれると考えるのが普通でしょう。
上の〔 〕の中の注釈はそのことを表しています。表の形にすれば、
自然科学 社会科学 人文科学
狭義 ← 科学 →
広義 ← 科学 →
こんな感じでしょうか。
もう一つ例を出しておきましょう。
生き物 (略)〔狭義では動物を指し、広義では植物をも含める〕 新明解第八版
「生物」であれば「動物」「植物」どちらも含めますが、「生き物」というと、「植物」を含めないこともありうる、というわけです。
動物 植物
狭義 ← 生き物 →
広義 ← 生き物 →
以上の場合は「狭義」と「広義」が対立していてわかりやすいのですが、前回の「食べ物」の場合はどうでしょうか。
食べ物 動物が生命を維持するのに必要な、穀物・野菜や肉など(を料理したもの)の総称。〔広義では果物を含み、狭義では飲み物を含まない〕 新明解第八版
「広く言えば果物を含み」、「狭く言えば飲み物を含まない」。
「果物」と「飲み物」の位置関係がわかりません。どちらも、「広義」には含まれ、「狭義」には含まれないように思われます。
「広義」でもなく、「狭義」でもない、もう一つの意味範囲を考えたほうがよさそうです。
穀物など 飲み物 果物
狭義 ← 食べ物 →
(一般義?)← 食べ物 →
広義 ← 食べ物 →
この「一般義?」は私が適当に考えたものですが、これでいいのでしょうか。
そうすると、「飲み物」が「食べ物」に含まれ、「果物」が含まれない場合ができてしまいます。
私は、これにはとうてい賛成できないので、前回も書いたように、せめて
〔狭義では果物を含まず、広義では飲み物を含む〕
としたほうがいいのではないかと思います。つまり、
穀物など 果物 飲み物
狭義 ← 食べ物 →
(一般義?)← 食べ物 →
広義 ← 食べ物 →
と考えるわけです。(ただし、これでも賛成するわけではない、ということは前回書きました。)
いずれにせよ、新明解の
〔広義では果物を含み、狭義では飲み物を含まない〕
という「広義」「狭義」の使い方は、わかりにくいのでよろしくないと思います。