ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解第八版:「広義:狭義」

前回の記事を書いていた時に気になった用語です。

新明解は、語釈の中でよく「広義:狭義」という言い方をします。

 

   広義 その言葉の意味のうち、指す範囲の広い方。
   狭義 ある言葉の意味のうち、指す範囲の狭い方。  新明解第八版

 

わかりやすいのは次の例です。

 

   科学 (略)〔広義では社会科学・人文科学を含み、狭義では自然科学を指す〕   新明解第八版

 

一般に、「科学」は「自然科学」「社会科学」「人文科学」の三つに分けられます。
その中で、「狭い意味での科学」は「自然科学」で、他の二つは「広い意味での科学」に含まれると考えるのが普通でしょう。

上の〔  〕の中の注釈はそのことを表しています。表の形にすれば、

 

        自然科学   社会科学   人文科学
   狭義  ← 科学 →
   広義  ←        科学        →

 

こんな感じでしょうか。

 

もう一つ例を出しておきましょう。

 

   生き物 (略)〔狭義では動物を指し、広義では植物をも含める〕  新明解第八版

 

「生物」であれば「動物」「植物」どちらも含めますが、「生き物」というと、「植物」を含めないこともありうる、というわけです。

 

         動物      植物
   狭義  ← 生き物 →
   広義  ←    生き物    →

 

以上の場合は「狭義」と「広義」が対立していてわかりやすいのですが、前回の「食べ物」の場合はどうでしょうか。

 

   食べ物 動物が生命を維持するのに必要な、穀物・野菜や肉など(を料理したもの)の総称。〔広義では果物を含み、狭義では飲み物を含まない〕  新明解第八版

 

「広く言えば果物を含み」、「狭く言えば飲み物を含まない」。

「果物」と「飲み物」の位置関係がわかりません。どちらも、「広義」には含まれ、「狭義」には含まれないように思われます。

「広義」でもなく、「狭義」でもない、もう一つの意味範囲を考えたほうがよさそうです。

 

          穀物など   飲み物   果物
   狭義   ← 食べ物 →
  (一般義?)←    食べ物    →
   広義   ←       食べ物      →

 

この「一般義?」は私が適当に考えたものですが、これでいいのでしょうか。

そうすると、「飲み物」が「食べ物」に含まれ、「果物」が含まれない場合ができてしまいます。

私は、これにはとうてい賛成できないので、前回も書いたように、せめて

   〔狭義では果物を含まず、広義では飲み物を含む〕

としたほうがいいのではないかと思います。つまり、

 

          穀物など    果物    飲み物
   狭義   ← 食べ物 →
  (一般義?)←    食べ物    →
   広義   ←       食べ物        →

 

と考えるわけです。(ただし、これでも賛成するわけではない、ということは前回書きました。)

 

いずれにせよ、新明解の

   〔広義では果物を含み、狭義では飲み物を含まない〕

という「広義」「狭義」の使い方は、わかりにくいのでよろしくないと思います。