この三語の組み合わせを見て、「年少・年長」はいいとして、なぜ「年中 ねんじゅう」が間に入っているんだ?と思った人は、かなり年配の男性でしょう。
これは幼稚園での学年(?)の呼び方です。「年中」は「ねんちゅう」です。
国語辞典を見てみましょう。
年少 年が若いこと。幼いこと。「━の友人たち」「━者」 明鏡
1年齢が少ないこと(様子)。「最-知事」2ある集団の中で比較的年下の人びとの称。「-組」→年長 新明解
年齢が下であること。若いこと。幼いこと。⇔年長。「-者」「-組」「最-」 岩波
年長 年齢が上であること。年上。「三歳━の人」「━者・━組ぐみ」 明鏡
1年齢が多いこと(様子)。「-者」2ある集団の中で比較的年上の人びとの称。「-組」→年少 新明解
年齢が上であること。としうえ。⇔年少。「-組」 岩波
年中 明鏡・新明解・岩波 項目なし
これらの国語辞典では、「年少・年長」はある程度年をとった人たちの関係について使われることばで、幼稚園での用法は無視されているようです。
用例に「-組」という形がありますが、これは幼稚園でのクラス分けではないでしょう。もっと年上の人びとを年齢で分ける場合の話です。
その証拠は、「年中」が項目としてないことです。「年少・年長」の幼稚園での用法に気付いていたら、当然「年中」という項目を立てるでしょうから。
(もちろん「年中 ねんじゅう」という項目はあります。また、新明解にはその意味での「年中 ねんちゅう」という項目もありますが、幼稚園のことは書いてありません。)
私が見た中では、幼稚園での「年少・年長」の用法を説明し、かつ「年中」を項目としている国語辞典は非常に少なかったです。(現代例解、学研現代、旺文社、新選、集英社など、みなダメでした。)
いちばん良いと思ったもの。
三省堂現代新
年少 [幼稚園で]最初の年次。「-組・-さん」(幼稚園以外の用法は省略します)
年中 [幼稚園で]まん中の年次。「-組・-さん」
年長 [幼稚園で]最後の年次。「-組・-さん」
幼稚園では「学年」と言わずに、「年次」というようです。
三省堂現代の説明は非常にわかりやすいですね。ただ、これは3年行く場合で、2年だけだと「年中」から入ることになります。
三国はどうかと言うと、
年少 〔幼稚園・保育園で〕三歳児の年次。「-組・-さん」(⇔年中・年長)
年中 〔幼稚園・保育園で〕四歳児の年次。「-組・-さん」(⇔年少・年長)
年長 〔幼稚園・保育園で〕五歳児の年次。「-組・-さん」(⇔年少・年中)
年齢を「三歳」などと書いていることと、「保育園」でも同じだとしています。
保育園のことはよくわからないのですが、ネットでの質問版の回答などを見てみますと、保育園はその園の方針によって、必ずしも幼稚園と同じではないようです。保育園は文科省の管轄ではないので、学校教育法には規定されないというようなことがあるのでしょうか。詳しい方に教えていただければ幸いです。(また、保育園には2歳児もいるでしょうから、その子たちを何と呼ぶのかということもあるのでは?)
もう一つ、小型辞典で面白かったのは、とても小さな辞典で、
デイリーコンサイス国語辞典 5版(2010)
年中 3年制の幼稚園で、真ん中の年次。年少と年長の間。~組
「年中」にはこのように解説されているのですが、「年少」と「年長」には幼稚園での用法はありませんでした。
古い3版には「年中」の項目はなかったので、改訂の際に「年中」を書き加えただけで、「年少・年長」の項目はそのままにしておいたようです。
三国でも、第五版には「年中」の項目はありませんでした。第六版から入ったのです。(現在七版)
三省堂現代は、前の五版にもありました。現在のは六版です。
「年少・年中・年長」という言い方はもっと前からあり、全国の親たちは口にしていたのですが。この用法が国語辞典にない、というのはなかなか気づかれないもののようです。
以上、私が見た中では、幼稚園での用法を書いているのは三省堂の辞典だけでした。
しかし、新明解は最近改訂したにもかかわらず、同じ出版社の他の辞書を参考にしていないようです。唯我独尊ですね。(明鏡も岩波も同じことですが。)
追記:
1 三省堂現代新に関して間違いがありましたので、訂正しました。
2 デジタル大辞泉の「年少」には、次のようにありました。
年少 幼稚園・保育園で、最年少の3歳児。「年少組」 デジタル大辞泉
しかし、やはり保育園には2歳児もいるでしょうから、「最年少の3歳児」というのはおかしいように思うのですが、どうでしょうか。
3 超大型国語辞典の「日本国語大辞典」には、「年中」がないということがわかりました。これはちょっと驚きでした。「年少・年長」には、「幼稚園などでクラスを区別するいい方」とあるのですが、それでいて「年中」の存在に気付かないとは。全国の親たちがみな知っている言葉なんですが。