新明解国語辞典は、副詞をかなり本気で扱っていていいと思っていたのですが、まとめていくつか見ていくと、どうもかなり怪しいと思うようになってきました。
そのうちの一つ、「少なからず」をとりあげます。
少なからず その数量や程度が、多い(はなはだしい)とは言えないまでも無視するわけにはいかないととらえられる様子。「 同じような例が-発見された/-驚かされた」 新明解
この「多い(はなはだしい)とは言えないまでも」というところ、そうでしょうか。
どうも私の感覚とは違います。
明鏡国語辞典を見てみます。
数量が少しどころではなく多いさま。また、程度がはなはだしいさま。かなり。「けが人が━出た」「━驚かされた」 明鏡
「少しどころではなく多い」「はなはだしい」とあります。同じ用例「少なからず驚かされた」をあげているのに、その解釈は新明解とはっきり対立しています。
他の辞書を見ると、明鏡と同じ解釈をするものが多いです。例えば、
数量、または程度が、すこしどころではなく。甚だ。[例]少なからず迷惑を受けた。 小学館新
(文章)数量・程度が、少しどころではなく。大いに。たくさん。甚だ。「少年も-参加した」「-驚いた」 集英社
なお、岩波国語辞典は「少なからず」を項目としてたてていません。
さて、なぜ「少なからず」という持って回ったような言い方をするのでしょうか。
単純に「多く」あるいは「はなはだしく」と言わずに、この表現を選ぶのはなぜなのか、という問題があります。
私は、次の三省堂国語辞典の説明がいいだろうと思いました。
〔文〕相当な程度に。「おおいに」と言いたいときにわざとおさえて言うことば。「-おどろいた」 三国
「わざとおさえて」、ちょっと格好をつけて言う言い方だ、と。
新明解も、何か説明をつけたいと考えてあのように書いたのでしょうが、急所を外しているように思います。
追記:
三国は「わざとおさえて」と書いていますが、次のように書いている辞書もあります。
たくさん。たいそう。はなはだ。非常に。〔「多く」より強い言い方〕「-おどろいた」[類語]大いに。 学研現代新
「少なからず」は「強い言い方」だそうです。
追記2:
岩波には「すくなからず」という項目はありませんが、「少ない」に次の記述があることを見落としていました。
「-・からず」(多く。転じて、はなはだ) [岩波国語辞典 第八版]
これを見ると、明鏡と同じとらえ方ですね。