ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

新明解の副詞:少々

新明解の副詞シリーズ、2回目は「少々」です。

 

新明解は、他の辞書のありきたりの語釈に不満を持っているのか(邪推?)どうも一言多いように思われます。

 

  少々  (副)分量・程度などが少なくて、大して問題(負担)にはならない様子。「-お待ちください/最後に塩を-加える/-のことでは驚かない」   新明解

 

「最後に塩を少々加える」の例で、「分量・程度などが少ない」のはわかるのですが、「大して問題(負担)にはならない」とはどういうことなのか。

「最後に塩を少々加える」ことによって、その料理の味がより良いものになるはずなのですが。

「少々のことでは驚かない」の例には、この語釈が当てはまるということでしょうか。

 

「少々」の類語としては、「少し」「ちょっと」などがあげられると思いますが、その違いをどういうところに求めるか。

基本的な意味としては「分量・程度などが少ない」ことでしょう。

「少々」では、それに加わる意味合いは何か。

それを新明解の編者は「大して問題(負担)にはならない」こと、と考えたのでしょうが、どうも的を外しているように思います。

 

  名・副 数量・程度がわずかなこと。少し(ばかり)。ちょっと。「昨日より━(=いささか)寒い」「もう━お詰め願います」「━の変動では驚かない」「塩[砂糖]━」[使い方]「ちょっと/少し/しばらく/少々 お待ちください」では、「少々」、次いで「しばらく」が丁重。「ちょっと」はややぞんざいな感じ。  明鏡

 

明鏡は、「少々お待ちください」を例にして、丁寧さの違いを説明しています。私も「少々」と「少し」の違いの一つは文体差だと思います。

 

「少々」では三国の説明が面白いです。

 

  (副)1すこし。わずか(に)。「-お待ちください・-のことではおどろかない」〔料理では、親指と人さし指でつまむ分量。→ひとつまみ〕2かなり。「-失礼な質問だ」  三国

 

「塩少々」というのは、「塩少し」ではないのですね。料理の世界では決まった言い方のようです。(一般の人がそのように理解し、「少々」という語を実際にそう使用しているかどうかはまた別の問題かもしれませんが。)

 

もう一つ、2つ目の用法として「かなり」の意味で使われるということ。私は、この指摘になるほどと思いました。

前回の「少なからず」の話で、「「おおいに」と言いたいときにわざとおさえて言うことば」という三国の説明を紹介しましたが、同じことが「少々」にも言えるのでしょう。

文体的に少し改まった言い方をして、「少し」の意味のことばを使っているけれども実際には「かなり」の意味合いなんだよ、と相手に伝えようとしている、その例として「少々失礼な質問だ」をあげる。

この辺は、三国がなかなかいいのではないでしょうか。